愛重
暁視点・1
※
向坂暁は、世界に愛されている。
何様だと思われるかもしれないが、暁の場合は違う。顔良し、運動神経良し、成績良し。これだけ出来すぎていると、嫉妬されたり敬遠されてもおかしくないのに、暁はそう思われることがないのだ。
(そう、俺『は』)
子供の頃、暁を好きだと言ってくれた女の子が苛められたことがあった。
暁はその子のことを何とも思っていなかったけれど、自分のせいで周りが動くことが嫌でそれ以来、自分から誰かに近づくのをやめた。
(まあ、皆、
何でも出来て、誰からも愛される世界はまるで決められた舞台やゲームに、自分が放り込まれたようで。単調でつまらなくて、誰も何も暁の心を動かすことはなかったのだ。
……中二の時、遊星と出会うまでは。
「俺、平遊星。よろしく」
親の仕事の都合で、転校した中学校で。
同級生達に騒がれたり、熱のこもった視線を向けられること自体は『いつものこと』だったのだが――自分の席に向かう時、前の席の生徒・遊星は『普通』に暁に声をかけてきた。
そう、そこにあるのは転校生に対しての気遣いだけで、いつも他から感じるような暁への無条件の好意がなかったのだ。
(だってほら、彼はもうこっちを見てくれない)
隣の席の女生徒は、教科書を見せてくれながらもチラチラと暁を見ているのに。遊星の背中からは、暁を気にしている気配をまるで感じない。いや、我ながら何を言ってるのかと恥ずかしくなるが。
(見た目普通なのに……彼は、その他大勢じゃないんだ)
だから遊星と話したければ、まず暁が自分から声をかけなければならない。
ただ、いきなり「話したい」と言うのも唐突すぎるので、校内の案内を頼むことにしたら何故だか同情された。
「モテる男も、大変なんだな」
どうやら、女生徒達の争奪戦を避ける為と思われたらしい。
変に僻まれるのも嫌だが、それだと誰でも良かったと思われそうなので結局、遊星と話したかったからだと告白した。
「え、そうなの? 俺、そんな情報通とか面白いとかないけど?」
浮かれることなく、逆に不思議そうにこちらを見ながら遊星は言う。
(そんなところが、なんだけどな)
暁に対して、普通に会話していること自体が『面白い』のだが――余計なことを言って、引かれたり警戒されるのも嫌だったので、暁はただ笑って頷いた。
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