前進

「本来、退学になるべきなんだけど……殿下が口添えしてくれたのと、魔法が使える上、使い魔を得たボクを野放しに出来ないから。監視の意味もあって、今まで通り魔法学園ここに通うことになったんだ」

「そうなん……」

「親は?」


 遊星のあいづちを遮って、アルバが短く問い詰めた。

 自分から噂話には参加しないが、全帝として上位の魔法使いの名前くらいは知っている。そしてその一人の家名が、目の前の同級生と同じだということも。

 普段(と言っても、まだ数日の付き合いだが)と違う彼の様子に、遊星以外の面々が驚きに目を見張る。そんな中、同級生の少年が問いに答えた。


「あの後、学校に呼び出された両親……と言うか、父に叱責されて。それは当然なんだけど、母が「怒るのと蔑むのは違うでしょう!」って父を一喝して」


 そこで、母親のいる前では父も兄も少年を責めたことがなかったと判明し。

 知らなくて悪かったって母親に謝罪された後、跡継ぎには兄達がいるということになり、母親と二人で家を出て母方の実家に引き取られたそうだ。

 下級ではあるが、母親の家もまた魔法使いを多く輩出している貴族なのだと言う。

 だからこれからは、と同級生が言葉を続けた。


「グレル・モラードじゃなく、グレル・ブラウ……なんだけど。あの、やっぱり顔も見たくないって言うのなら」


 藍色の髪に、同じ色の大きな瞳。

 小柄で線が細く、声を聞いても男子の制服を着ていても少女のように見える。

 ちなみに昨日、遊星は寮の部屋でグレルのことを「男の娘?」と言っていた。とは言え、ティエーラにはない言葉なので、アルバは最初「同じ年で『男の子』はないんじゃないですか?」と突っ込みを入れた(後から意味を聞いたが)


「……そうですか、改めてよろしく」

「えっ、いいの!? いや、最初に聞いたのはこっちだけど……俺達といると、浮くよ!?」


 同級生の――グレルの言葉にそう答えると、相手もだが周りから先程同様、驚愕の視線を向けられた。いや、視線だけではない。フェルスから、身も蓋もない質問をされた。

 とは言え、こちらとしても言い分がある。


「僕こそ、これが地ですが……それで、よければ」


 にこりともせずにそう言うと、目を真ん丸くした後――フェルスが、目の前で噴き出した。

 そしてしばらく笑った後、イグレットとミーネに向き直った。


「面白くなりそうだよね!」

「そう言えるあんたは、相変わらず馬鹿よね。まあ、よろしく」

「……よろ、しく」


 そしてフェルスの言葉を流しつつ、イグレットとミーネもアルバに答えてくれた。

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