逆鱗

 魔力の属性は大抵一つ、二つ以上あるとそれだけで珍しいと言われる。

 かつての勇者は、全属性の魔法が使えたと伝わっており――それ故、同様に全属性の魔法を使えるアルバを、勇者の再来と呼ぶ者もいる。


「もしや、と思ったけど……遊星も、全属性なのね」


 召還された訳ではないが、遊星も伝説の勇者と同じ異世界人だ。

 そんな訳で、カリィは属性を調べられる水晶を遊星に持たせた。すると、それぞれの属性を示す色が水晶の中で幾つも煌いた――カリィに拾われたばかりの、アルバのように。

(属性を調べるのは本来、六歳になってからだしな)

 知っていれば村を、両親を助けられただろうか――そう思ってしまうこともあるが、過去は誰にも変えられない。それに属性があっても放出させ、魔法として使いこなすのは別の話だ。

アルバはこのギルドで、義母に魔法を教わったので『全帝』と呼ばれるまでになったのだが。


「はぁ……神様が、生まれ変わってもまたすぐ死なれたら困るって」

「……随分と、恵まれているんですね」

「アルバ」


 遊星の言葉に引っかかり、つい嫌味のようなことを言ってしまったアルバをカリィがたしなめる。

 けれど善行ゆえの加護なのかもしれないが、簡単に手に入れたと聞くとやはり不愉快だ。異世界から来たのに、言葉が通じるのも同様の理由なのだろう。しかもそれを口に出す辺り、馬鹿だと思う。

 物語の勇者に対しては感じなかったが、実際、こうして目の当たりにすると苛立ちしか感じない。本人に悪気はないんだろうが、今までの自分の努力は何だったのかと思ってしまうからだ。


「ただ、いくら恵まれていても使いこなせないと意味がない。実際、僕が助けなければ地面に激突してあなた、死んでましたよね?」

「……はい」

「アルバ。『魔法学園』に行けば、魔法を勉強出来るでしょう?」

「マスターが決めたなら、そうすればいい。ただこれ以上、僕を巻き込むのはやめて下さい」


 これ以上、と言ったのは今回の『魔法学園』入学もまた、カリィから命じられたことだからである。

 今年十六歳になるアルバだが、すでに『全帝』になっている。けれど、義母から「大人ばかりではなく、同年代の者と接することも必要だ」と言われて渋々了承したのだ。その上、魔力だけはあるが世間知らずの異世界人の面倒を見るなんて冗談じゃない。


「依頼を完了したと、受付に伝えて来ます」


 そう言うとアルバはフードを被り、カリィの返事を待たずにカリィの部屋を後にした。

『魔法学園』は、その名の通り魔法を学ぶ学校だ。とは言え、誰でも入れる訳ではない。試験を受け、一定以上の実力がなければそもそも受からないのだ。

(あの調子だと、入学自体も怪しいな)

 入学までは十日ほどある。

 元風帝・現ギルドマスターのカリィの伝手で入学試験は受けられるとしても、合格するかどうかまで便宜は図れない。


 ……そんなアルバの予想は、けれど覆されてしまった。


 試験の為に、魔法の基本的なことは教えたらしいが――遊星はあっさりと全属性の魔法を、しかも無詠唱で使いこなせるようになり、首席で合格したのである。

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