六章 二度目の事務所

第18話 重大発表

 九月。リリースイベントから一週間が経った、日曜日。

 ボク達は久々に事務所へ、相変わらず地下だが呼び出されていた。


「プロデューサーさん、遅いですわね。もう十五分も遅刻ですわ」

「かー、酷い話っすねぇ。遅刻は他人の時間を奪う行為、犯罪っすよ!」

「アンタ、この前自分が遅れた時は『時間厳守は陰謀いんぼう』って誤魔化ごまかしたわよね」

「そうだね。鉄道運用のため、かつて政府が広めた概念がいねんだー、とか言って」


 この通り、ボク達は四人並んで椅子に掛け、東條とうじょうさんが来るのを待っていた。

 もう活動も三ヶ月目だ。東條さんのことだって、多少わかってくる。


「ま、まあでも、さすがにもう少しすれば、東條さんも…………」


 そんなことを言った時だ。ガチャリ、部屋の扉は外から開かれ、


「何だお前ら、十五分も遅れたのに暇だけ潰してたのか。仕事しろ仕事」

「なるほどね。暇の次はアンタの頭でも潰してほしい、ってわけ」


 東條さんが現れ、早速黎明くろあさんから怒りを買う。うん、そうなると思ったよ。そこはやはり元天使側と本物の悪魔のやり取りと言うか、第一声から彼、謝ったことないし。


「まあ許せ。打ち合わせがあったんだ。お前達など比較にならない、超大物とな」

「ボク達じゃ、比較にならない…………?」


 って、驚く話じゃないか。ボク達、グループとしては新人だし。


「それに、いい知らせもある。喜べ、千人規模の会場で初単独だ」

「千人規模で単独――――ッ!?」


 これには驚きで声も上げるよ! だって千人規模で単独だよ!?


「わざわざ呼び出したんす。相応の話がある、とは思ってやしたが」

「それほど大規模な集会、お兄様の頃でも開けたかどうか…………」


 咲良さくらちゃんと碧姫あきさんすら各々引いてる。そうだよね、千人だもの。

 今日までの活動と話の規模が違いすぎて、正直何も想像出来ない。

 そんなボクの感情を見越みこしてたかのように、東條さんは指を鳴らし、


「場所は日本青年館ホール。日付はクリスマスイブ――――」


 その仕草だけで彼は、辺り一帯を無人のコンサートホールへ変貌へんぼうさせる。

 これもまた、天啓てんけいなのだろう。だが彼の描くそれは現実そのもので、


「どうだ? ここがお前達が直面する、次の舞台だ」


 座席の最前、中央部から見回す光景に、ボクは圧倒される。

 学校の体育館より遙かに広い空間に、上質な椅子がズラッと並んでいる。

 ステージも広く、木製の上品な造りで、それ自体がまるで美術品だった。


「これが、千人規模の…………」


 ダメだ。見せられたからこそ、ここでライブする絵が余計想像出来ない。


「でも千人って所詮しょせん田舎町の、例えば北都留郡きたつるぐんの人口とほぼ一緒なんすよね」

「北都留郡! 走り屋のメッカだった大菩薩だいぼさつラインの場所ですわね!」


 片や咲良ちゃん達、受け入れたね。その数を田舎町と置き換えて。

 確かにそう考えると、少ない…………?

 いや、だとしても、ここが人で埋まる光景となるとまるで見えない。


「ま、セラフィドールなら、ちょっとしたイベントで使う会場よね」


 一方黎明さんは自身の経験から、むしろ狭いくらいの感覚で語る。

 もしかして、この広さにビビってるのって、最早ボクだけ?

 いや、うん、本当はもう、わかってたんだ。

 皆もう、アイドルを始めてから、それだけ成長して――――。


「ところで、単独、と申されましても、一体何をやりますの?」


 そう碧姫さんは首を傾げるが、ライブと思ってなかった、なんてオチでもあるまい。


「確かに、アタシらの曲ってデビュー曲とカップリングの計二曲っすもんね。まさか延々これを繰り返す感じっすか。地獄っすよ。そんな『Love Somebody 完全版』と『GETWILD SONG MAFIA』を交互に聴かせるみたいな真似」

「う、うん、口振りからして、どっちも同じ曲だけ色々入ってるのかな?」


 せめて会話くらいは付いていこう、と口を挟むが、え、何それ。

 そんなCD、うん、実在する上でイジってるね。咲良ちゃんだし。


「安心しろ。お前達の持ち歌は、今日から十三曲だ」


 ともあれ、パチンと、東條さんが再び指を鳴らす。

 するとステージ上、机くらいの高さの木製台座が複数現れた。

 等間隔上とうかんかくじょうに並ぶその数や、彼の言葉にあったのと同じ、十三。

 そこには古めかしいレコードプレイヤーがそれぞれ乗っていた。


「この一枚一枚が、ボク達に与えられた曲、ってこと…………?」


 だとすると過剰演出だが、彼、大体そういうの入れてくるし。

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