第14話 仲間達
「そ。じゃあ私達、案外似た者同士なのかもね」
「似た者同士…………?」
首を
彼女は足元から石を拾うと、眼前の
「私もアンタと同じ。夢物語を
ポン、と上がる
「そもそもの話、私は別に、アイドルとか興味なかったの」
まあ、そうだよね。でなきゃ多分、セラフィドールでの成功は捨てられない。
けど、あれほどの実力者だ。無関心なまま業界に入ったわけでもあるまい。
「けどある日、アイドルの密着番組を目にしてね。気持ちは一変したわ」
多分ドキュメンタリーものだろう。結構なアイドルがそういうの、出してるし。
「アイドルなんて
「練習して、挑戦して、喜びの体現者に…………」
そう
「私の活動は順調だった。すぐに人気を博して、異常よね」
「そ、そんなことないよ。それは黎明さんが頑張ったから」
つい口を突いたが、その努力を踏まえても『異常』だったのだろう。
「ここが努力で評価される世界なら、私は今でも天使側でしょうね」
そう目を伏せる表情には、寂しさのようなものが滲んでいた。
なるほどね、やっぱりセラフィドールは天使側で――――。
その活動自体は嫌いじゃなかった、そう彼女の表情が暗に語る。
それでもこの世界は、彼女に脱退を選ばせた――――。
「現実は違ったの。成功には、理不尽な
「それって、東條さんが言った、天使や悪魔みたいな…………」
そうだ。思えば彼女は最初から、その点に動揺してなかった。
早々に
「私、調べたのよ。幸い、お金もコネも、人気ゆえ持て余してたから」
何も知らないかつての自分を思ってか、
「そうして私は真実を突き止め、事務所に叩きつけた。ま、最初は否定されたけど」
「み、認めさせたんだね…………。さすが、黎明さんと言うか…………」
真実から逃げなかったことも、事務所と戦う胆力も、やっぱり凄い。
「裏で動くな、とは言わないわ。そういう卑怯者を、制する術でもあるし」
「そうだね。何事も全部、正々堂々決まれば一番だけど…………」
そうならないとは、大人に近づくにつれ、
勘付いてもボクは、立ち回りとか上手くないし、損するばかりだったけれど。
「私が許せなかったのは、天使のやり方よ。世界を自分達の価値観で染め、それに沿ったものを供給し、需要に応える――――。そんなマッチポンプみたいなやり方、私の憧れたアイドルじゃないわ。私が求めるのは、喜びこそ優先した、残酷で
「残酷で、清廉な――――」
確かに、出来映えだけで判断されるなど、言いようによっては残酷だ。
けど観客だけを思うのであれば、その
「そ。
だがそうして彼女は、セラフィドールを離れるに至ったわけだ。
天使云々など語っても普通は信じない。だから脱退理由も伏せてたのか。
「私は、私の憧れたアイドルになりたい。そのために世の価値基準を変える」
だが悪魔を知る今のボクなら、経緯も含め、彼女の動機も納得出来る。
「そしてその上で私は、頂点に君臨する。ね、素敵な目標でしょ?」
その上でボクは、意趣返しとばかりに尋ねるのだった。
「――――本気で言ってるの? そんな
そんな意図は、彼女にだって伝わっていたのだろう。
「ふふ。当然よ。私だって必ず、やり
その笑みは
またである。もう何が面白いのか、正直わからなかった。
なんて思うが、あるあるとして知るだけで
ボク達は悪魔側。
そうしてひとしきり笑い合った頃、黎明さんは振り返って、
「アンタ達も盗み聞きしてた以上、ちゃんと付いてくるのよ」
「ぬ、盗み聞き…………?」
彼女の視線に釣られるように、ボクは顔と意識を
すると草の擦れる音に混じって――――、何だろう、ヒソヒソと交わされる、声?
「どうしてバレましたの? ワタクシ達、ちゃんと隠れていたはずでしてよ!」
「ちょ、あれは多分ブラフで、反応したらバレ…………、わ、わわっ!」
それからドテーン、と。倒れ、積み重なる形で柱の裏から現れたのは、
「あ、
「い、いや、違うんすよ。アタシら、万一の時は止めようと思って」
「そうですわ!
ちなみに、上が咲良ちゃんで、碧姫さんがそれを支える形だった。
「ふーん、言いたいことはそれだけかしら?」
笑顔だが、
練習の邪魔になるから、とレッスン場を離れた結果がこれだ。怒るのもわかる。
だが、そんな行動を取ってくる彼女達が、怒られ慣れてないはずもない。
「いやぁ、まさか環希さんにそんな動機があったとは、感動っす!」
「黎明さんの心情にも納得です。やはり目指すは
「全部聞いてて、って――――。練習、本当にしてないんだね…………」
意図してやったのか、こうも反省がなければ、呆れる他なくなる。
相変わらずの手法だが、けどボクは、最初から怒ってもいなかった。
決着云々で頑張ったものの、『練習は?』と言えばボクもしてない。
聞かれた話だって、黎明さんに明かした今、皆にも話すつもりだった。
すでに性別は知られてるし、向き合った現在、それなら隠す必要もない。
あとは黎明さんだが、諸々踏まえ、彼女も考えが決まったようだ。
「本当、酷いもんね。悪魔側の連中も、悪魔側の連中で」
そうして深く溜め息を溢すと、晴れた苦笑で言うのだ。
「ま、面倒は見るわ。やり遂げられる気は、しないけど」
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