第7話 初めての楽曲
「アンタ、時間に遅れてきたくせにその
「そうっす、遅刻アリなら言うするべきっす。アタシも倣うんで」
「ダメですわ! お
「ちょ、ちょっと皆…………」
文句もわかるけど、静かにしなきゃ話が進まないと言うか。
「やあやあ言うな。こっちはお前達のため、曲を用意したんだ」
「え、えええっ!? きょ、曲――――ッ!」
だって、曲だよ? こんなのボクじゃなくてもテンパるよ!
「そういうことだ。まあ黙っとけ。今からそいつを聴かせてやる」
そう言って彼は、ズカズカと部屋を進み、機材のある一画まで足を進める。
部屋のスピーカーで曲を流すつもりだろう。そういうの、天井に付いてるし。
「ボク達のための楽曲…………、一体どんなのだろう…………」
「アタシとしては速いのとか高いのは嫌っすね。疲れそうなんで」
「ふふ、血圧と一緒ですわね。ワタクシも出来れば健康体で、と思いますわ」
「アンタ達ねぇ…………。ま、いいわ。精々期待しすぎないことね」
なんて話している間に、準備が整っていたのだろう。
「――――行くぞ。お前達には勿体ないほどの『悪魔曲』だ」
ポチリ、東條さんが機材のボタンを押すと、流れ出したのは優雅な旋律で、
「この曲って…………」
「私の経歴に全乗っかりする、ってことね。ま、合理的かしら」
確かに、現状このグループ一番の強みは、元セラフィドール・黎明さんの存在だ。
以前の活動を思わせる楽曲を用意すれば、間違いなく
でもこの曲調は『悪魔曲』とは
「売れるためなら手は選ばない、って話っすかね。その考えは悪魔的っすけど」
「ワタクシ、この曲何だか苦手ですわ。もっとこう、ギュアーン、っと」
なんて、
その言葉に応じるが
え、と戸惑う思考に、次いで激しいリフとドラムが襲いかかった。
な、何これ、曲変わった? 急にメタルみたいになったんけど?
正直付いていけない展開だ。だが興奮で、ゴクリと喉がなる。
この曲、格好いい。悪魔が作った『神曲』だ――――。
「一つ、いいものを見せてやる。これが今日お前達に与える、
だが、その時ボクは何を思うより一番に、
その音は、東條さんが
ひ、弾けるの!? と言うか、え、とんでもなく上手いんだけど!
そして、彼を中心に室内は、段々と夜の教会へと染められていく。
やがて鮮明となったその闇夜では、紫の煙が嵐となって暴れていた。
あの煙は多分、人の亡霊だ。ところどころ顔のようなものが窺える。
「覚えておけ。お前達はこれを、歌と踊りで再現するんだ」
「再現って、え、天啓を、ボク達が…………?」
え、ボク達、普通に人だよ? こんな魔法みたいな力、無理じゃない?
「安心しろ。方法はある。知っての通り、人の
「な、なるほどぉ…………?」
とにかく凄い演技をすれば人も天啓を作れる、ってことらしい。
劣化コピー等々の凄い発言も出たが、駒であることは知ってたし、今更だ。
「いや変っすよ。アタシら人間から見たことないっすよ? 天啓」
一足先に事態を受け入れていたようで、咲良ちゃんが口を挟む。
「確かに…………。凄いダンスとか、今ネットで全然見られるのに」
それらが天啓に達してないのなら、うん、ボク達に出すの、無理よ?
日々練習こそ積んでるが、だからこそプロ等との実力差もわかってる。
「天啓は、それを知る者にしか認識出来ない。そういうものだ」
「ううん? 認識出来ないのだとしたら、なぜそれを目指しますの?」
次いで尋ねたのは碧姫さんである。皆、うん、変に飲み込みが早いね。
「そ、そうだね。やれ、って言う以上、意味はあるんだろうけど」
「認識出来ないだけで、天啓は深く、相手の心に刺さる」
AメロからBメロへ。
心に、刺さる? それって感動する、みたいなこと?
正直な話、ボクは彼の言ったそれに、ピンと来てなかった。
だが、ドラムのフィルインが弾け、ギターが吠えた先で、
ボクは、心を刺される。
「見せてやる。大悪魔マモンとして、お前達が目指す
サビだ。再度駆け出す伴奏と共に、彼のピアノが矢のように降り注ぐ。
避ける間はなかった。直後にはもう、心は感動で
凄い。凄い凄い凄い! サビに入るまでのボクを最早忘れそうになる。
この、価値観すら塗り替えてしまえるような感動こそが、そっか。
これが、『心に刺さる』って感覚なんだ――――。
「天啓は、人を導く力だ。こいつを
彼の放つメロディアスなフレーズに合わせ、亡霊達も加速する。
渦巻く破壊は椅子を巻き上げ、壁を崩し、やがて屋根すら破る。
「この変革で世界を変えろ。それで、お前達の強欲は
そうして残ったのは、僅かばかりの基礎と、なおも暴れる亡霊達の渦だった。
それらを生み出すこの楽曲も、猛烈なスピード感のままサビを駆け抜ける。
「さあ、終わらせるぞ。この、美しい世界を――――」
やがてアウトロを抜け、
世界の破滅――――。にしては意識があって、目の前に景色もあって、
そっか。天啓が終わっただけなんだ。だからボクの生きる現実は、他にあって、
ギターの
楽曲の後半、ボクは彼の天啓に飲まれ、何を思うことも出来なかった。
「…………これが、ボク達の目指す至高の天啓」
実のところまだ、ここが現実だと信じ切れてない。虚実すら歪めるとか、本当に凄い力だ。この力なら『世界を変える』なんて大風呂敷も、叶えられるかもしれない。
「歌詞や振り付けを含め、お前達のスマフォに送っておく。ちゃんと見とけよ」
「げっ、出た。アタシ、人に言われて動画とか見るの、苦手なんすよね」
「わかりますわ。どう反応すればいいんだろう、って困りますわよね」
東條さんの指示に対し、即脱線した会話を返す咲良ちゃん達。
「ちなみに、その、ボク達を導いてくれる、講師とかは…………」
「居るわけないでしょ。こいつにそんなお金があると思う?」
だ、だよね。何か、うん、嫌な感じで現実感が戻ってきたよ。
「ああ、そうだな。不合格者共に下りる予算などない、って話だ」
次いで東條さんもグサリと刺してくる。そこを突かれると痛い。
「そ、そっか。でもそういうことなら、より一層、頑張らなきゃだね」
そうだ。練習して練習して、少しずつでも出来ることを増やしていけば、
時間は掛かるだろうけど、いつかは彼みたいな至高の天啓だって、
「そうしてくれ。二週間後にはもう、ライブに出てもらうからな」
「…………へ?」
やっぱりこれ、現実じゃないんじゃないかな?
即ライブなんて話も、タイトすぎる日程も、夢か冗談みたいだ。
でも、うん、現実だろうな。目の前の景色、全然変わらないし。
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