革命の兆し

第49話:居場所

 

「ひ〜よ〜り〜さ〜ま!」


 帰ってすぐにひよりの部屋へ直行する泰人。


「ぐへっ」


 しかし、突然後ろから首根っこを掴まれ変な声が出た。


「静かにしろ。そして帰ってきたらまず手を洗え。隼人、お前何やってんだ」


 何故かブチ切れている菜摘によって泰人は口を閉じる。チラッと横目に菜摘の顔を見るが「あ"?」といわれてすぐに視線をそらした。


「何で俺まで!?」


 隼人は理不尽じゃないかと声を上げるが「文句あんのか?」と圧をかけられ口を閉じた。「輩かよ」と内心突っ込んでおいた。


 怒られてすぐに手を洗いに行けば隼人が毒づいた。


「菜摘様柄悪過ぎでしょ」


「本人の前でいえばいいのに〜。隼人はやっぱり小物ですね」


「うるさいですよ!」とむくれる隼人だがその姿は楽しそう。泰人も泰人で普段は煽り口調ではないにもかかわらず沸点低めな隼人をからかって面白がっていた。


「誰が治安悪めだ雑魚隼人。三枚に下ろすぞ」


「待ってくださいよ!!そこまでいってませんから!!てか、マジでナイフ出すのやめてください最低っ!!」


 後ろでしっかり聞いていた菜摘が逃げられないように肩を組み首にナイフを向ける。それを笑顔で見ている泰人というマジで治安が終わっている現場。それを、たまたま通りかかった硝子と和哉、ひよりの三人が見ていた。


「菜摘さん。なんでそんなに機嫌が悪いの?」


 ひよりがそう問えばナイフを下ろす。ゆっくりと視線をひよりに向ければ菜摘は話し始めた。


「裁判所が泰人へ出頭命令を出した。それも、開闢の魔女率いる行政機関...信仰統制局へだ」


 その言葉に泰人以外は驚いたような表情を浮かべた。


「それ、なにかまずいんですかー?」


 呑気な泰人にひよりが口を開いた。


「各地に存在する小規模教団の抗争はよくある事なんだけど、大きな規模の教団には抗争一つとっても制限がある。前話したように、皇帝と呼ばれた魔女を失ったあとの、反魔女達の革命のようなことが起きたら困るでしょ。本来大規模教団の抗争はタブー。内紛に至っては著しく組織が乱れた場合、責任者と該当者への罰が下るんだよ」


 そういえば全員が、司教と守り人達を泰人がボコった話を思い浮かべる。ニュースなどメディアでも大々的に報道されていたため内紛か抗争だと思われたのだろう。元から予想はしていたが、まさか開闢の魔女率いる組織に出頭とは考えていなかった。


「それ、行かなきゃだめですかー?」


「面倒ですし、何より僕は悪いことしてないのでパスで!」と笑顔でいう泰人に隼人が泡を吹いて倒れた。ひよりはクスクスと笑い和哉は引きつり笑顔。


「なんか来たら殴り飛ばせば証拠隠滅じゃないですか?」


「あぁ、俺もそう思ってた。どう考えたってわざわざ開闢の魔女の本拠地へ泰人を呼ぶのはおかしい。行かなかったところで向こうが軍を動かすことは考えにくいだろう」


 しかし、硝子と菜摘は泰人の意見に賛成派であった。


「信仰統制局は、皇帝消失後の反魔女の革命を教訓に作られた行政機関なんだよ。始まりの魔女誕生から改正された法に基づき、違反者の取締を行う。主な傘下は、始まりの使徒といわれる旧自衛隊によって組織された軍、そして警察、裁判所だよ」


「従来の違反者は逮捕状片手に警察や軍が家に乗り込んでくるんだよ」といえば、「へぇ〜!」と泰人はなぜだか楽しそうにしていた。


「明らかな特別待遇だ。少しくらい図に乗っても酷い目には合わないだろ」


 菜摘の言葉を聞けば、硝子に泰人、ひよりはウンウンと頷いた。


「で、それがなんで菜摘が機嫌が悪いことと関係してるんですかー?」


 そう泰人が菜摘に問えば、菜摘は泰人の頭を鷲掴みにする。


「硝子から聞いたぞ。お前、舐めてるやつに対しては呼び捨てらしいな?一回開闢の魔女に締められてこい」


「行かなくてもいい流れはどこに行ったんですか...」


「えへへ〜」と何故かニコニコする泰人に呆れる和哉。菜摘は泰人に「菜摘」と呼び捨てにされてるのが気に食わなかったらしい。六つも歳上なのに。


「というか、泰人様より下ってひより様しかいませんよね?」


 泡を吹いて倒れていた隼人がムクリと起き上がればそう主張する。周りはウンウンと頷いた。


「うっ...私、菜摘さんしか、さん付けしてない...」


 すると、ひよりが気まずそうに下を向く。


「ひより様はいいんですよ!!」


 すぐさま和哉がひよりを肯定した。


「はぁ、めんどくせえ。もう全員下の名前で呼ぶ。敬称とかは各自。嫌でも共同生活すんだから、できるだけ親しみを込めろよ」


 異議を唱えた本人がそういえば周りは頷く。ひよりも納得したように上を向けば、隼人の顔が強張っているのに気づいた。


「隼人...どうかしたの?」


 ひよりがそう聞けば緊張したように震える声でいった。


「俺も、ここにいていいんですか?」


 その問の意図が分かった菜摘と泰人は、ふふっと控えめに笑った。


「うん」


 短く返事をしたひよりは手を伸ばす。その小さな手を見て涙ぐむ隼人は、


「これからも...よろしくお願いします...ひより様」


 涙を隠すように今日一番の笑顔を見せた。ひよりの手を取ればまだ小さかった。この小さな手がいつか、大きな組織を率いる時が来る。その時まで...まだ、小さな自尊心と正義の芽を、育ててあげなければいけない。そう強く感じたのであった。

 

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