　憎まれはしても、改宗されるようなことをした覚えがない。そういえばおかしそうに笑われた。

「魔女には誰も異議を唱えられない。それが当たり前の世界で、己の正義を貫く機会に恵まれた。巨悪の根源が誰であるのかを知り、一番フクロウについて詳しい自信のある父と祖父は、魔女様を救うために私をこの教団へ送り込んだのです」

「教団を捜査するために改宗したんですよ」といわれ、ポカンと口を開けた。正義への執着とでもいうのか。反魔女と後ろ指を指されてなお、教団へ自身の娘...孫を入れる。私がいえることではないが...狂っている。そう思った。

「それで、いいの？自分の意志じゃ...ないんでしょ？」

　それなのに、私のために命をかけられるの？と疑問が浮かぶ。

「私は正義のヒーローが好きです。魔法少女が悪の敵を倒してキラキラしてるのより、戦隊ヒーローが敵をタコ殴りにして血祭りに上げてるほうが好きです」

　突然そんな事をいい出す。硝子の目を見るが、これがまたマジの目をしている。本人はいたって真面目に話していた。

「赤いマントをなびかせて、泣いている人に手を差し伸べる。ひより様、私は...ヒーローになりに来ました。貴方を、助けたくて...笑顔にしたくて来たんです」

「だって、ヒーローってカッコよくないですか？」と無邪気に笑う姿にポツリ。またポツリと涙が頬を伝う。いたのだ。ずっと、私を助けようとしてくれていた人が。その事実が嬉しさもあり、戸惑いもあり、申し訳無さもあった。

「かっこいい」

　ぶっ飛んだ家族なのだと思った。それでも...狂っていると思われるほど、真っ直ぐに正義を追い求める姿は間違いなく...かっこいい。そういって微笑めばいつの間にかランタンは最後の一つになっていた。

「私は貴方の剣です。それと同時に、ひより様が間違った道に進みそうになったときは全力で止めます。それが私の役目ですから。これからも、よろしくお願いします」

　伸ばされる手を包むように両手で握って返した。

「うん！よろしくね」

　これが、トラブルメーカーだとばかり思っていた硝子の見方が変わる機会となった。

「あ、ひより様。明日から暇をいただいてもよろしいですか？」

　すると突然そんなことをいわれギョッとする。暇をいただく、の意味は分からないが多分休みがほしいというニュアンスなのだろう。そもそもここって会社か何かだっただろうかと悩んでしまった。

「い、いいよ？」

　いや、良いといってしまって良かったのだろうか。菜摘に聞いたほうが良かったのでは？と一瞬頭に過るがもう遅い。忘れよう、と自分にいい聞かせた。

「明日から、祖父がしらすの一本釣り漁に行くというので同行しようかと思って」

　しらすって、なんだろう。まずはそこからなのだが、ひよりはしらすが2cmくらいの稚魚だなんて知りもしない。

「沢山取れるといいね」

　そう声をかける。普通に考えれば、2cmの稚魚を一本釣りなんて頭がおかしいと思うだろう。思わないのがひよりである。おそらくこれが泰人でも「わ〜！いいですね！」なんてよくも分かっていないのにいっていることだ。

「いざとなったらタモを持って飛び込みますから大量ですよ」

　タモって、なんだろう。そう思いながら海に飛び込む硝子を思い浮かべた。

「泳ぐの上手なんだね」

「はい」

　二人は仲良くなれた気がした。しかし、お手洗いを探して徘徊していた直哉がこの会話を見ていたのだが、後にこう語っている。

「あれは、悔しいけど、俺にも分からない次元の話だったよ」

「悔しいのかよ」と菜摘が突っ込んだのはまた別の話である。

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