第33話:火を灯す
数少ない小皿を2枚割ったところで、和哉に「疲れていると思いますし、もう寝ましょう!」といわれほぼ追い出されるように厨房を出た。今更直哉達のところへ戻るのも面倒だと、面倒くさがった結果、自身の部屋へと続く廊下を歩く。日が暮れてから通る廊下は、少し心細かった。
「魔女様、人手不足で廊下のランタンに火を灯す人がいないため暗くなっています。ですから、こちらをお持ちください」
真っ暗な廊下を歩いていれば突然後ろから声がして振り返る。火のついたろうそくを持ち、立っていたのは硝子だった。
「私なら、できる?」
壁に掛かっているランタンに火を灯せばいいだけ。そう思って両手を伸ばす。微かなろうそくの灯りでランタンの位置を確認すれば口を開いた。
(ーもうここは閉鎖空間じゃない。想像力が身につくことはいいことだ。が...想像した先にどんな影響があるかまで考えろ)
「これ、やったら火事になる?」
しかし、菜摘にいわれた言葉を思い出して止める。硝子にそう問えば「なるかもしれませんね」というのだから、諦めて手持ちのろうそくで火を灯すことにした。
「数、多いね」
「はい。いつもは暗くなる前に10人ほどで火をつけて回っていましたから」
そうなんだ...知らなかった...と驚く。何に使うのかよくわからない大量の部屋と無駄に長い廊下。そんな廊下にかけられたランタンが一体どれほどの数かと考えただけでゾッとする。すると、何かに気づいたというように眉間にシワを寄せた。
「何でここはボタンでパチッてしないの?」
純粋な疑問であった。ひよりの部屋はボタン一つで灯りがつくのになぜここだけ手動なのだと。その問に硝子は悩む。
「作った人が馬鹿だったんじゃないですか?私もよくいわれます」
私もよくいわれる、というのは何か関係があるのか?とキョトンとしてしまったが、それには触れないことにした。
「部屋、戻らないの?」
暫くランタンに火を灯して回るが驚くほど静か。二人だと間が持たず、思わず硝子に問う。
「はい。お一人だと危ないので」
そういわれれば、ひよりは一瞬驚くような顔をしたが、ムフフと嬉しそうに笑い始めた。心配してくれる人がいることに嬉しくなったのだ。
「私の先祖は、そこそこ名のある武士であったそうです。その名残りなのか、男女問わず幼い頃から剣道や柔道を習っていました。父も祖父も普通の警察官ですし、兄は消防士です。母はママさんムエタイ教室に最近通っています」
何を語り始めたのかと思えば家族についてなのだが、お母さんのママさんムエタイ教室がパンチが強すぎて何も入ってこない。というかムエタイって何ですか?なんて聞ける雰囲気ではなかった。
「みんな、柔道とか剣道とかやってた関係で、なんちゃって仏教みたいな考え方が強かったんです。ですけど、改宗しまして。今では魔女様一筋です」
なんで改宗したの?どこに改宗する要素があったの?と聞きたいことは山々だが聞いていいのか分からず困惑する。情報過多である。
「私の父と祖父は、教団フクロウについて追っていました。魔女のお膝元であると見逃されていた数々の暴挙。実際に捜査をしてみれば、魔女の名前を使っているだけで、魔女が教団を運営している事実はなかったんです」
ひよりの考えを見透かすように話す硝子。捜査ということは、刑事なのかな?それも、教団について捜査をするなんて随分と肝の据わった方々だと、ひよりは驚いていた。
「それが発覚してすぐに裁判所に逮捕状を申請しました。本来、魔女はいかなる罪にも問われることはありませんが、魔女の命を受けたわけでもない一教徒が、数々の罪を犯しているというのは見過ごすことのできないものでしたから」
すごい人たちなんだな...なんて聞いていた。行動力の塊のような人たち。しかし、逮捕状を申請した後の流れが容易に想像できてしまい、ひよりが口を開くことはなかった。
「結果として、逮捕状は出ませんでした。それどころか、父と祖父は退職を迫られ事実上のクビになりました。たちまちその噂が広がり、反魔女であると何処へ行っても後ろ指さされるような生活へと変わりました」
反魔女を掲げることを罪だと定めた法律はない。それでも、国会では度々声は上がる。国民の誰しもが反魔女を悪とするあまり、反魔女と見なされれば人権などあってないようなもの。例え、反魔女の人間が殺されようとも警察は黙認する。それほどまでに、人々にとって反魔女とは、悪なのだ。
「私を、憎むべきじゃないの?」
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