第13話:お遣い


「私はともかく。奏人がモック行って大丈夫だろうか」


 無銭飲食の常連である少女は、魔女でもないパンピーの奏人が行ったところで追い返されるのではないかと今更になって心配するのであった。


その頃...


 「危ない危ない。この間の店員さんがいてよかったです...」


 無一文な奏人は屋敷を飛び出し、以前行ったモックを訪れたが、レジでお金を求められたときに気づいてしまった。お金がないことに...


 どうしようとオロオロしていれば以前、泣きながらお礼を言いに来ていた女性店員が対応してくれた。


「次回からは他のバイトにも周知させておきますので!またいらしてください!」


そう何度も頭を下げる女性店員に「はーい!また来ます!」と返事をする。それと同時に、いつまでも魔女様の名前でご飯を食べていてはいけないと、職を探そうと決意した奏人であった。


 喉が渇き、帰りに屋敷近くの公園に寄れば蛇口で水を飲む。たった数日で一変した生活だったが、たまにこうやって水を飲むだけでもスラムが思い出された。


 「そこの。コレ、買ってくれないか?」


 水をがぶ飲みしていれば後ろから声をかけられた。

 

「うわっ!!」


 驚いて蛇口を閉めようとするが間違えて開いてしまい大惨事。結局、声をかけてきた男性と共にビショビショになった。


 「ごめんなさーいっ!あ、あと、僕今お金なくて...」


 バツが悪そうにそういえば「財布でもすられたのか?災難だったな」と何故か同情された。だがすぐに自分の服を見て気が付く。結局昨日の騒動のあと直ぐに店の人が屋敷に服を一式送ってくれたらしい。明らかに自身には不釣り合いなブランド物の服ばかりを身に着けていることを考えると、それが理由で声をかけられたのだろうと奏人は納得した。


 ビショビショだが立ち話も酷だと近くのベンチに座れば男性もそのすぐ隣に腰掛ける。近くでスンスンと匂いを嗅がれたから余程酷い匂いがするのかと内心焦った。


 「お前、魔女か?」


 問の意図は分からなかったが、そう聞かれ首を横に振る。


「いえ、僕は魔女様の弟子...みたいな感じで。魔女様じゃないです」


弟子であってたよな?と少し考えながらそう言う奏人に、男性は驚いたような表情を浮かべた。


「何の魔女?弟子を取るってことは紅玉の魔女か。癒しの魔女も弟子がいたな。それとも...」


 癒しの魔女というワードは以前耳にしたことがある。だが、初めて聞く紅玉の魔女のワードに首を傾げた。


「いえ、魔女様は叡智と呼ばれています!」

 

 魔女について物知りだな...と感心しつつ、男に叡智の魔女だと伝えれば固まっていた。


「叡智の...魔女?」


 すると男の目の色が変わる。それと同時にザシュッと魚や肉でも捌いているかのような音がした。


「へ...?」

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