第8話:有名人
「魔女様...おはよう、ございます...」
すぐ横に寝ていた奏人が大口を開けてあくびをする。奏人が目覚める1時間前から起きていた少女は、やっと起きたのかという呆れも込めて「おはよ」と軽く返した。まだ午前7時の出来事である。
「魔女、狩り?」
少女の手元にあるスマートフォンに目を向ける。熱心に見ていた動画は魔女狩りと書かれたタイトルのもので思わず質問した。
「昨日話したでしょ。反魔女感情を持つ人たちがやったんだよ」
反魔女を掲げる人間は魔女狩りやテロ行為なんかを行うことがある。そう聞いたことを思い出し「あぁ」と手を打った。
「この魔女見たことない?」と画面に映る魔女の姿を見せられるが、生憎少女以外の魔女を知らないので首を傾げていた。
「魔女には2通りいるんだよ。息を潜め、天命を執行するときにのみ表に現れる者。あるいは、魔女という地位を活かして顔を売る者。主に芸能界や政治家に多いよ。でも、魔女を売りにするということは、こういう風に狙われるリスクが非常に高いということだ」
「この魔女は確か今話題の新人女優じゃなかった?」と少女がいう。そんなことを言われても、つい一昨日までスラムで元気にゴキブリを追いかけて遊んでいた泰人には新人女優なんてもの分かるわけがない。少女も少女で芸能人なんてものは興味がないため、教徒が話しているのを聞いて知っているだけだった。そもそもスマートフォンを手に入れる(パクる)まで動画すら見たことがなかったのだから知るわけがない。
「魔女様、昨日騒ぎになってましたけど...魔女様も有名人なんですか?」
昨日の店員たちの反応を思い出しながら奏人がそう問う。
「国内一大きな宗教団体らしいよ。フクロウっていうんだって。教徒の人口が桁違いに多いから顔は割れてるらしい」
そういう少女に違和感を感じた奏人は、疑問を口から出る前に止めた。
なぜそんなにも他人事のように話すのか...
昨日の二の舞いで、また少女を悲しませないようにという奏人なりの配慮だった。それは懸命な判断だったようで、少女自身も浮かない顔をしている。
「買い物行こうか」
気持ちを切り替えるようにそう言えば、少女は服を着替えた。軽く準備運動をして、また窓から降りてコッソリ裏門から屋敷を出たのであった。
「なんだか、」
少女について歩けば、昨日モックに向かった大通り。しかしモックを通り過ぎて左に曲がったところに店はあった。奏人でなくても入るのを躊躇いそうな高そうな店構え。流石にビビっている奏人などそっちのけ。少女は普通に入っていくのだからギョッとした。
「魔女様!!よくぞいらっしゃいました!!」
入ってすぐに、絵に書いたようにペコペコと頭を下げゴマをする店員が迎えてくれる。
「そこからそこまで。似合いそうなの全部」
店員がやってくるや否や店内に陳列された服を端から端まで指差していった。店員はそれを聞けば嬉しそうに「かしこまりました!」と返事をして奏人をつれて試着室へ。似合いそうな服というよりサイズが合うものを片っ端から着せられ、終わる頃にはヘトヘトだった。
「それ、似合ってるね」
紺色のシャツを着て出てきた奏人にそう言って近づく。ブランドは聞いてもわからない。だが、服の肌触りの良さや店内には嗅いだことのない香水のような匂いが漂っていることから、相当高いのではないかと内心怯える奏人。
「こちらお品物になります。量が多いですから、後日お届けにあがりましょうか?」
そう言われ手提げ袋の数を見る。明らかに二人で持ちきれる量ではないと頭を抱えた。素直に店員にお願いをしようとしたとき...
「それには及ばない。我々が魔女様のお荷物をお運びします」
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