第5話:信仰心
祈りが終わり、部屋まで戻る。少女は帰ってすぐにまた動画を見始めてしまう。1時間といったところだろう。静かに動画を見ている少女を横目に、暇で仕方のない様子の奏人は床をゴロゴロと転がっていた。
「奏人、日用品揃えに行こうよ。あとついでに朝ご飯」
その言葉にバッと起き上がっては少女の元へ駆け寄った。この上なく嬉しそうな奏人の表情に、少女も思わず嬉しくなった。奏人は「着替えてくる」と駆けていく少女を見た。「奏人も早く!」と呼ぶ姿に優しく微笑んだ。女性...十和子から見る自身はきっとあんな風に見えていたのだろうと少しばかりの悲しさ。目頭が熱くなった。
そんな事は知らない少女が、クローゼットを開け放ちオープンに着替え始めた。奏人は着替えの服なんてものは渡されていないため、今着ているものしかない。結局少女の着替えを待って屋敷を出た。なんだか随分と子供らしい少女の姿に今のほうがしっくり来ているような気がしたのはナイショだった。
「魔女様、なんで表から出ないんですか?」
裏門から出たこと。そして、少女の部屋の窓からカーテンを垂らし、こっそりと降りて行ったことに疑問を感じる。そんな奏人に目を合わせようとしない少女の口からはとんでもない言葉が漏れた。
「私、教徒の誰かが側にいないと外出たらだめなんだよ」
「見つかったら強制送還だから気をつけて」という少女に顔を真っ青にした。ブンブンと頭を振って周りを見るが今のところはバレていなさそうでホッとした。
「ここだよ」
「ここですか!!」
コソコソと屋敷を出たあとも、やはり心配で周りをキョロキョロと見て落ち着かない様子だった。少女の声でやっと外へのお出かけを楽しみにしていた事を思い出す。
連れてこられた場所は、魔女グッズや祈りのための道具を扱う店、胡散臭い魔女養成所なんてものまで店として並んでいる一角にあった。
「車の窓からよく見えてたから。気になってたんだよね」
そう言って見つめているのは店の看板。
一際目を引くMの文字に「おぉ〜」と声を上げた...
「モックドナルド。ハンバーガーというものを売ってる店」
「ハンバーガーってなんですか?」と首を傾げる奏人に一言。
「さぁ?」
少女も知らないのだ。二人揃って知らない店に軽いノリで入店するのだから驚きである。
「いらっしゃいま...ま、ま、ま、魔女様!?」
大行列の店内は、一瞬にして左右に人が避けた。中には地面に膝をつき頭をこすりつけている人間もいた。
「魔女様、あの方は何をしているんですか?」
頭を垂れる人間を指差す奏人に周りの人間はギョッとしていた。顔を赤く染め怒りの表情の者もいれば、青ざめ怯えている者もいる。
「頭を垂れてる人は私を信仰してる人っていうことだよ。頭を垂れてない人は他の魔女を信仰してるか反魔女の人間だろうね」
目を細めあたりを見渡せばビクリと肩を揺らす人間もいるのだから間違いない。
「反魔女?」
「創造神様や魔女をよく思ってない人間だよ。たまにテロを起こしたり、魔女や魔女の卵を殺したりしてる連中」
「危ないですね...」と言うので「そうだね」と軽く返してレジに向かった。
「並ばなくていいんですか?なんか、みんな並んでましたよ?」
奏人の声に周りの人間は開いた口が塞がらない。「こいつは何を言っているんだ?」とでもいいたそうな顔でこちらを見ている。
「と、とんでもございません!!最優先でお作りさせていただきます!!」
店員がそう言うのだから「いいんだよ」と少女は言うが奏人は不満有りげな顔。そんな奏人の気持ちを察して口を開いた。
「いいよ。私達も並ぼう」
「は、はい!?」
全員が顔を真っ青にして立ち尽くす。次の自身の取るべき行動が分からないといったような、そういう表情だ。2人が入口付近まで下がれば一言。
「どうしたの?私がいっているんだよ?」
その言葉を合図にバタバタと全員が、少女たちが入ってくる前の位置に戻った。
「すごいですね!」
そんな光景を見てすごいと形容する奏人。息の合った団体行動のように見えたのだろう。ぶつかる事なく数秒で列を作る様は確かに息が合っていた。
「満足した?」
子供のわがままを聞いてあげたと言わんばかりにそういえば「はい!」と元気よく返事する。周りは周りで魔女を待たせてはいけないと全員ドリンクしか頼んでいない。
「た、大変お待たせいたしましたっ!!」
「誠に申し訳ございませんでした!」
10分待ったか待ってないかくらいで、店の奥から店長と他店にいたマネージャーまで駆けつけ土下座する勢い。
「初めて待ったけど、案外待つのもいいね」
奏人が楽しそうに「あれが美味しそう」だとか「あれもいい」と語る様子を見て上機嫌な少女を前にホッとする。
「メニューとかよく分からないから、適当に2人分持ってきてよ」
「はい!!かしこまりました!!」
「お席までご案内いたします!」と言われ、マネージャーに連れられ店の奥へ。席につき、奏人と向かい合うように座って待っていれば、明らかに2人分ではない量が運ばれてきた。
「お持ち帰りされる場合は新しくお作りしますので!食べきれない場合も残していただいて結構です!!」
「それでは、失礼します!」と深々と頭を下げていく。あまりにも挙動不審な店長と思しき男性を見て、少女と奏人は思わず笑ってしまった。
「どうやって食べるんです?これは食べていいやつですか?」
包装された紙を摘みそういう奏人に「多分外すんじゃない?」と手探りで食べ始める。紙を外したは外したで食べにくいかもしれないと試行錯誤。ハンバーガーとは別に来ていたホットケーキを見れば、プラスチック製のナイフとフォークが付属していた。結果として、ナイフとフォークを用いて食べる事で丸く収まった。
影からチラチラと見ていた店長とマネージャーは「違う違うっ!そうじゃないっ!」とてもいいたげだが、魔女にビビっていえない。こちらはこちらで「食べ方にも多様性の時代だよね」と多様性を感じる事で自己完結した。
「あ、あのっ!!お食事中失礼しますっ!!」
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