第三話 アンサンブル

転校から1週間が経ったころ、クラスの空気はますます重苦しくなっていた。携は雫以外の誰ともまともに話をすることなく、授業が終わるとすぐに教室を出るようになっていた。


だが、その日、携はいつもと違う様子だった。休み時間に何かを考え込むようにして、ずっと机に伏せていたのだ。


「どうしたの?」雫が心配そうに声をかけると、携はゆっくり顔を上げた。彼の目には、不安と恐れが混じっていた。


「僕…この学校でやっていけるのかな…」携はか細い声でそう言った。


「何言ってんだよ。大丈夫だって。俺もいるし、すぐに他の友達もできるよ。」雫はそう言って携の肩を軽く叩いた。


しかし、その瞬間、教室の後ろから小さな笑い声が聞こえた。由美と葵が、携の方を見て笑いを堪えているのが目に入った。


「なんであいつ、まだあんなデブと話してんの?」葵が由美に耳打ちし、二人は小さく笑い合った。


その様子を見た携は、再び顔を伏せてしまった。彼の中で何かが壊れる音がしたような気がした。周囲の冷たい視線や、嘲笑混じりの声が、彼の心に鋭く突き刺さっていた。


「やっぱり、僕なんか…」携が再び呟いたが、その言葉を遮るように雫が言った。


「そんなことない!俺はお前の味方だよ。何があっても一緒にいるから。」雫の言葉には真剣さがこもっていた。


携はその言葉に少しだけ勇気をもらい、ようやく顔を上げた。しかし、その背後でクラスメートたちが交わしている言葉が、彼の耳に微かに届いていた。


「雫も、あんな奴と一緒にいたら、いずれ同じ目に遭うんじゃない?」洋が、他の男子たちと話しているのが聞こえた。


「だよな。俺たちとはもう違う世界の住人かもな。」別の男子が笑いながら答えた。


その言葉を聞いた携は、自分が雫に迷惑をかけているのだと感じた。自分のせいで彼が孤立するかもしれないという恐れが、彼の胸を締め付けた。

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