第二話 二人だけの世界
金持 携が転校してから数日が過ぎた。しかし、彼にとってその日々はどれも長く、孤独なものだった。彼が教室に入るたびに、生徒たちは目を合わせることなく、わずかな時間を費やして席を移動したり、彼のそばを避けるように過ごしていた。
「おはよう…」携が小さな声で挨拶をするも、誰も返事をすることはなかった。彼の声は、まるで無視されたかのように、教室の雑音に消えていった。
そんな中でも、中村 雫だけは変わらずに携に話しかけていた。毎朝、彼は教室に入ると携の席に行き、軽く肩を叩いて「おはよう」と声をかけた。しかし、そのたびに教室の空気が微妙に変わり、他の生徒たちが遠巻きに二人を見つめることを、雫は感じていた。
「雫、あんまりあいつと仲良くしない方がいいんじゃないか?」ある日、休み時間に友人の兎原 洋(うさぎはら よう)が、少し困った表情でそう言ってきた。
「なんで?」雫が尋ねると、洋は肩をすくめながら答えた。
「だってさ、あいつと一緒にいるとさ、なんか…変な目で見られるだろ?あいつ、絶対にトラブルメーカーだよ。そんなのに巻き込まれるのはごめんだ。」洋の言葉には、明らかに携への嫌悪感が滲んでいた。
「でもさ、転校してきたばっかりで、まだ誰も友達がいないんだろ?それって寂しいじゃん。俺たちが話しかけないと、誰が話しかけるんだよ。」雫はそう言い返したが、洋は首を振った。
「お前はいいやつだよ。でもな、世の中にはどうしようもないやつだっているんだ。俺たちの生活が変わっちまうのは、誰も望んでないんだよ。」洋はそれ以上何も言わず、他の友人たちと笑い合いながら、教室の隅へと歩いていった。
その日の放課後、雫はいつものように携を誘って一緒に帰ろうとした。しかし、携はどこか消極的で、雫の声に反応するのが遅かった。
「今日は一人で帰るよ…」携はそう言って立ち上がったが、雫は彼の肩を掴んで引き止めた。
「なんで?一緒に帰ろうよ。」雫が微笑んで言うと、携は微かにうつむいたまま答えた。
「…僕と一緒にいると、君まで嫌われちゃうよ。」携の声には、諦めと悲しみが混じっていた。雫はその言葉に一瞬驚いたが、すぐに優しく笑って首を横に振った。
「そんなことないよ。友達って、そういうもんじゃないだろ?一緒にいれば、もっと楽しくなるさ。」雫の言葉に、携はしばらく沈黙していたが、やがて小さくうなずいた。
「…ありがとう、雫くん。」携がそう言って顔を上げた時、彼の目には少しだけ光が宿っていた。
だが、彼らの会話を遠くから見つめている生徒たちの中には、明らかに二人を冷ややかな目で見る者たちがいた。
「なんで雫は、あんな奴とつるんでるんだろう?」七星 由美(ななせ ゆみ)は、他の女子たちと囁きながら、携の方を見ていた。
「きっと、あいつのことを利用してるんじゃない?」葛西 葵(かさい あおい)が軽く笑いながら言った。
「でも、なんか気持ち悪くない?あんなデブと一緒にいるとか…無理だわ。」由美がそう言うと、他の女子たちは顔を見合わせて微笑んだ。
彼らの言葉は、携の耳に届くことはなかったが、その背中には重くのしかかるような孤独感がついて回っていた。
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