第6話 最悪の結末
動かなくなった魔王に恐る恐る近づくデリルたち。腕を交差させたままピクリとも動かない魔王。静寂が場を支配する。
「やっぱ、倒しちゃったんじゃない?」
デリルが言う。まるで石像のように固まって生気を全く感じられないのだ。
「あの魔王がこんなにあっさりと倒れるか?」
エリザは半信半疑で魔王を見ている。魔王の青い肌が灰色に変化しているのはアルの闘気を喰らった影響だろうか?
アルは先ほどの攻撃でほとんどの体力を使い果たしていた。
「アル様、こちらをお使い下さい」
いつの間にか現れたシルヴィアが小瓶に入った液体を手渡す。「ハイポーションです」
以前デリルが森の小屋で作っていたポーションよりも上質な回復薬である。
「そっか、魔力を使う訳じゃないから回復薬でいいのよね」
アルが小瓶の中身を飲み干すのを見ながらデリルが呟く。ハイポーションを手渡したシルヴィアはまた忽然と姿を消していた。
「ふぅ、これで何とか戦えそうだ」
アルがハイポーションを飲み終えると、先ほど闘気として放出した体力があっという間に回復した。さすがはハイポーションである。
「それにしても微動だにしないわね」
とうとうデリルはすぐ傍まで近寄り、動かなくなった魔王に触れてみた。「きゃっ、冷たい!」
デリルは思わず手を引っ込める。触り心地は石そのものである。ノックするように交差した腕の辺りを叩くとコンコンと乾いた音がした。
「まるっきり石だな」
エリザは戦斧の先でつついてみた。固い物の感触の後、急にぐにゅっと柔らかい感触に変わる。
灰色だった魔王の皮膚が徐々に元の青い肌に戻ろうとしている。
「い、生きてるぞ!」
エリザは魔王の傍から飛び退く。デリルも慌てて距離を取る。
「ふぅ、待たせたな」
すっかり元の青い肌に戻った魔王がデリルたちに言う。「全身石化は解除に時間が掛かるのだ」
硬化魔法では防ぎきれないと悟った魔王は全身石化でアルの攻撃を凌いだのである。硬化魔法は固くなるだけなので攻撃も可能だが全身石化してしまうと完全に無力化してしまう。魔王にとっても苦渋の選択だった。
「そうか、石化している間に砕いてしまえば良かったんだ!」
エリザは悔しそうに指を鳴らした。
「馬鹿め、全身石化したわたしをそう簡単に砕けると思うか?」
おそらく砕こうとしている間に石化が解けて魔王の逆襲を受けるのが関の山だろう。
「
アルが平気そうな魔王を見て勇気を
「ふははは、お前たちの命もあと
魔王は勝ち誇ったように笑う。
「くっ、もうダメなのか……?」
エリザは戦斧を構えているが戦意は喪失しかけていた。
「違うわ、アルくん! 魔王は今、回復のための時間稼ぎをしているのよ!」
デリルはそう言って手を
デリルの掌から爆裂魔法が発せられる。魔法はそのまま魔王の顔の傍で大爆発を起こした。魔王は衝撃で二、三歩後退し、片膝をついた。よく見ると肩で息をしている。やはり
「ホントだ、この野郎、結構ダメージ受けてるんじゃねぇか!」
エリザが戦意を取り戻す。
「今度こそヴェラの仇を獲るぞ!」
アルも竜殺しの剣を構え、闘気を込め始める。
「くっ、気付かれたか……。もう少し回復を待ちたかったが仕方がない」
魔王は立ち上がり、剣を構える。「まだまだこれからだ!」
「おい、イズリード!」
突然、後方から名前を呼ばれ、思わず魔王が反応する。
「なんだ?」
魔王が振り返ると
「無駄だ、魔王。諦めろっ!」
アストラが涼しい顔で魔王に言う。宝石と魔王の間にはとてつもない力が働いているというのに掌に乗った宝石はピクリとも動かない。
「ぐぐぐっ、舐めるな人間。この程度でこの魔王を倒せると思うなよ!」
魔王は両手をクロスさせ、さらに引力に抗う。必死の抵抗を続ける魔王。やがて強烈な引力がピタリと止まった。
辺りを静寂が包む。
「ふははは! 残念だったな、時間切れのようだ。この魔王をここまで苦しめた報いを受けさせてやる!」
魔王はアストラに飛びかかり、手刀で心臓を貫く。口から大量の血を吹き出し、アストラが絶命する。
「次はおまえだ!」
魔王はデリルに飛びかかり、両手で首を吊る。しばらくバタバタと暴れていたがやがてぐったりと動かなくなった。
「お前も死ね!」
魔王はエリザの後ろに回り、手にした剣で容赦なく首を
「ふははは、最後はお前だ。勇者の血脈、断たせてもらうぞ!」
魔王はすでに戦意を失ったアルの前に立つ。膝まづいて命乞いをするアルの頭を踏みつけ、床に押し付ける。限界を迎え、アルの頭蓋骨は粉砕し中から
「フハハハハハ、ブァハハハハハ」
いつまでもいつまでも、魔王の勝ち誇った笑い声が響き渡った。
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