第4話 総攻撃開始

「くっ、このままじゃやられちまう。とにかくこちらから仕掛けるぞ!」


 エリザが戦斧を構えてアルに言う。


「よし! 行くぞ、魔王!」


 アルは鼓舞するように叫んで魔王に飛びかかる。エリザもそれに続く。


「あっ、アルくんたちが仕掛けたわ! 私たちも援護しなきゃ!」


 デリルは魔王に向かって手を翳す。「行くわよ、それっ!」


 渦巻く炎が魔王に向かって放たれる。アルとエリザがほぼ同時に魔王に斬りかかる。合わせるようにデリルの炎も魔王を襲う。


「ふんっ、つまらん」


 魔王はマントを翻してアルとエリザを、そして渦巻く炎さえも弾き飛ばす。「臥竜がりゅう、こんな雑魚どもと一緒に死ぬ気か?」


 魔王は再びヴェラに話しかける。


「油断するな。ほら、すぐ傍にいるぞ」


 ヴェラが魔王に忠告する。アルとエリザはマントの動きに合わせて後ろに跳び、すぐさま懐に飛び込んでいた。


「ほう、小癪な奴らだ。だがこの身体には傷一つ付けられんぞ」


 魔王はアルの剣を避けようともせず、そのまま斬らせる。


 ズシャ……。


 アルの剣が魔王の胸板を切り裂く。

 

「バカな? わたしの身体に傷を負わせただと?!」


 驚く魔王の首にアルの突きが襲い掛かる。「くっ、調子に乗るな」


 魔王は素早く身を引く。


「ほら、こっちにもいるぜ!」


 死角を突いてエリザが戦斧で斬りかかる。「デリル、来い!」


「行くわよ、それっ」


 デリルがエリザの戦斧に雷を落とす。帯電した戦斧をすかさず魔王に叩きつける。


「むぅ、この技は……あの時の女戦士か?!」


 魔王がエリザを睨む。気付かなかったのも無理はない。エリザも当時よりかなり増量しているのだ。


「へっ、今頃気付いたのかよ」


 エリザは素早く距離を取る。アルも同様に射程圏外に離脱する。


「ちょっと、あんたも少しは戦いなさいよ!」


 デリルはアストラを焚き付ける。


「しかし、私の魔法は陰属性が大半だからな。魔王とは相性が悪いのだ」


 アストラは困った顔でデリルを見る。


「そんな事言ってる場合じゃないわ。こうなったら最終手段よ!」


 デリルが覚悟を決めたように言う。


「デリル。お前、まさかアレをやろうってんじゃないたろうな?」


 アストラがごくりと唾を飲み込む。「駄目だ! アレは師匠にも禁止されているだろう?」


「師匠も相手が魔王なら許してくれるわ」


 デリルの決意は固い。「魔王イズリード、奴を倒すにはアレしかない!」


「落ち着け、デリル! 別の方法を考えるんだ!」


 アストラはアレを使わせまいと必死でデリルを説得する。「……ん? ちょっと待て、デリル。お前、今なんて言ったんだ?」


「アイツを倒すにはアレしかないって言ったのよ!」


「違う! その前だ。お前、魔王の名前を知ってるのか?!」


 アストラは必死の形相でデリルを問い詰める。


「へっ? 当たり前じゃない。私は二十年前にイズリードと闘ってるのよ」


 デリルはあまりにも当たり前過ぎてアストラの真意を汲み取れなかった。


「そうか、イズリードか。よし、分かった」


 アストラはそう言って疎通の魔法でネロとシルヴィアに話しかける。


(これから魔王に総攻撃をかける。お前たちも飛び道具で攻撃を加えろ)


「何やってるの?」


 突然黙り込んだアストラに話しかけるデリル。


「いいか、これからお前たちは魔王に総攻撃をかけるんだ。出来るだけ魔王の意識をらしてくれ」


 アストラはデリルに指示する。


「それであんたはどうするのよ」


 デリルは今なお対峙している魔王とアルたちの方を見ながら言う。


「今度こそ何とかする」


 アストラは自信満々に言う。


「まぁ良いわ。総攻撃を掛ければ良いのね?」


 デリルはアストラに念を押す。


「ああ、頼んだぞ」


 アストラは何やらごそごそと懐を探りながらデリルに言った。


「みんな、一気に仕掛けるわよ!」


 デリルはアルとエリザの傍まで飛んでいくと二人に伝える。


「それぞれの最大の技を魔王にぶつけるのよ!」


 デリルは両手を広げて灼熱の火球を作り出す。


「よし、じゃあ僕は……」


 アルは懐から瓶を取り出して中身をぐいっと呷る。竜の血ならぬ竜の乳である。


「みんなで掛かるんじゃな、ではわらわも……」


 ヴェラが眩い閃光と共に臥竜がりゅうに変身する。


「よーし、渾身斬こんしんぎりをおみまいしてやる!」


 エリザがゴキンゴキンと身体を鳴らしながら言う。


「ふんっ、雑魚が何匹束になって掛かってきても無駄だ!」


 魔王は余裕の表情でデリルたちを見ている。


「行くわよ、それっ!」


 デリルの灼熱火球が放たれる。真っ白に輝くその玉は魔王に直撃し、全身を炎が包み込む。


「やったか?!」


 エリザが目を輝かせる。


「あんなのでやられるタマか。ほれ、お前も早く乗れ」


 ヴェラはすでに竜の乳を飲んだアルを背に乗せ、魔王に突撃する準備を整えている。「普段ならお前は足にでも捕まれと言うところだが……」


 ヘーゼルとの戦いで腕を負傷しているエリザをおもんぱかり、特別に背に乗せてやると言うのだ。


「長距離移動でしか乗せてくれなかったのに珍しいじゃねぇか。遠慮無く乗らせて貰うぜ」


 エリザはちょっと照れ臭さを隠しながらヴェラの背に乗った。


「アル、準備は良いか?」


 ヴェラが尋ねる。


「ああ、今なら魔王の首でも簡単に取れそうだぜ」


 アルは竜殺しの剣を構えて闘気を送り込む。青く光る刀身がアルの自信をさらに増幅させる。


「あたしは全身で奴の頭に戦斧を叩き込む!」


 エリザも戦斧を構えて気合いを入れる。


「それでは行くぞ!」

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