第10話 決着!?

「アル! 危ねぇっ!」


 アルの背後からエリザが飛び掛かり、アルを抱えてドロップキックを喰らわせるようにしてヘーゼルから竜殺しの剣を引っこ抜いた。


「エリザ! 大丈夫なの?」


 アルはエリザに後ろから抱きかかえられたままエリザに尋ねる。


「馬鹿野郎、あたしの心配はするなって言っただろ?」


 エリザはそう言いながらも後ろからぎゅっとアルを抱きしめる。「でも、嬉しかったぜ、俺のエリザ……だなんてな」


「ぼ、僕、そんな事言った? 頭に血が上っててよく覚えてないなぁ……」


 本当は覚えているのだが何だか照れくさくてアルはとぼけた。二人はそのままの体勢でぼそぼそと何やら話をしている。

 

「おい! 何をいちゃいちゃしてるんだ! 戦いの最中だぞ!」


 ヴェラが思わず怒鳴りつける。二人が仲良さそうにしているのが気に入らないようである。そしてもう一人、その様子を不快に思っている者がいた。

 

「貴様ラ、俺様ヲドコマデ馬鹿ニスルツモリダ!」


 ヘーゼルはアル目掛けて拳を繰り出す。

 

「掛かったぞ! 行け、アル!」


 エリザがそう言ってアルの背中をぐっと押し出す。その勢いでアルはヘーゼルにカウンター気味に剣を振るう。

 

 ズバッ!

 

 快音と共にアルはヘーゼルの背後に着地した。

 

「……グ、グヌゥ……」


 ヘーゼルは片膝を着いて呻いた。

 

「さあ、おっさん。降参しろよ」


 アルは片手で竜殺しの剣を構えてヘーゼルに言う。

 

「フン、マダマダコレカラダ!」


 ヘーゼルは何事も無かったように立ち上がり、アルと対峙する。

 

「いや、勝負ありだろ。あんた、右腕を切り落とされてるんだぜ?」


 アルは呆れた顔でヘーゼルに言った。ヘーゼルの右腕は上腕から切り落とされて床に転がっている。

 

「未熟者メ、コノ程度デ勝ッタト思ウトハ……」


 ヘーゼルは転がった自らの右腕を拾い上げる。「オ前如キ、左腕ダケデ充分ダ。来イッ!」

 

「あれぇ? ちょっとカチンと来ちゃったなぁ……」


 アルの持つ竜殺しの剣が青白い光を帯びる。「今度は首を刎ねてやるぜ!」

 

 アルはヘーゼルに飛び掛かる。ヘーゼルは自らの右腕を持ったままで迫りくるアルを黙って見ている。次の瞬間、ヘーゼルは切り落とされた右腕の手首を掴んで上段に構えた。

 

「今度ハ俺様ノ番ダ!」


 グシャッ!


 鈍い音が響き渡る。ヘーゼルは切り落とされた右腕をこん棒のようにアルの頭に振り下ろしたのである。まさかの攻撃でアルは床に叩きつけられた。ヘーゼルはなおも左手に掴んだ自らの右腕をアルに何度も叩きつける。

 

「アルッ!」


 エリザが背後からヘーゼルに戦斧で斬りかかる。

 

「オ前ニハこいつヲ喰ラワセテヤルッ!」

 

 ヘーゼルは振り返りざま切り落とされた右腕の付け根をエリザに向ける。そこからぬっと顔を出した右拳がエリザの顔面にヒットした。カウンターで喰らったエリザの巨体が宙を舞う。

 

「なっ、右腕が生えてきた!?」


 デリルが驚いて声を上げる。自分の方に飛んできたエリザを魔力で受け止め、ゆっくりと床に寝かせる。さすがのエリザも完全に気を失っている。「そういえば魔王の奴もそんな事してたわね」

 

 デリルが二十年前を思い出して呟く。どうやら初見ではないらしい。ヘーゼルは生えてきた右腕も使って切り落とされた以前の右腕を両手で持ち、アルの身体に叩きつけようと振りかぶった。

 

「!? 何処二行ッタ?」


 床に倒れていたはずのアルが忽然と姿を消している。ヘーゼルがエリザに気を取られている隙にネロが救出したのである。

 

「こうなったら私が相手になるわ!」


 デリルはそう言ってヘーゼルの方に右手を翳す。しかし、その肩にそっと手が置かれ、何者かがデリルの前にゆっくりと現れた。

 

「ヘーゼル、貴様は完全に人では無くなったのだな……」


 ネロの治療によって復活したミゲイルがヘーゼルを憐れむように言う。

 

「みげいる……ソンナ目デ俺様ヲ見ルナ!」


 ヘーゼルは悲し気なミゲイルの瞳を見て不快そうに言う。「俺様ハ魔王ノ化身! 人間ナンゾトウ二捨テタワ!」


「決着をつけようか、ヘーゼル。お前が目指した大将軍の真の力を見せてやるぞ!」


 ミゲイルはすらりと剣を抜く。真っ赤な闘気オーラが刀身とミゲイルの身体を包み込む。


「フッ、サッキアレダケヤラレタトハ思エン台詞ダナ」


 ヘーゼルは馬鹿にしたように吐き捨て、もはや鈍器と化した自らの切り落とされた腕を構える。「モウ二度ト戦エン身体ニシテヤル!」


 ヘーゼルは雄叫びを上げながらミゲイルに飛び掛かる。両手でしっかりと切り落とされた腕を掴んで上段に振りかぶり、ミゲイル目掛けて振り下ろす。


「私が帝都大将軍ミゲイルだ!」


 ミゲイルは振り下ろされた腕を躱すと、ヘーゼルの両腕を小手先から切り落とした。ヘーゼルはそのまま両膝をついて身体をくの字に曲げる。「さらばだ、ヘーゼル!」


 ミゲイルが背後から首を刎ねる為に剣を振り下ろした。


「ミ、ミゲイル様……、何が起こったのですか!?」


 突然、ヘーゼルが以前の声で話し始めた。「ああっ! 私の腕がぁぁぁぁっ!」


 ヘーゼルは床に転がり、のたうち回り始める。


「ヘーゼル!? どうなっているんだ、お前……」


 ミゲイルは戸惑いながらヘーゼルに近づく。


「あなたがやったのですか!? なぜ、副官の私を……」


 ヘーゼルは呻くように言いながらどさりと仰向けに倒れた。


「ヘーゼル、お前は魔王に身体を乗っ取られておったのだ」


 ミゲイルは剣を鞘に納め、ヘーゼルの傍にしゃがみ込む。「痛みのあまり、正気に戻ったのか!?」


「もはやこれまで……。ミゲイル様、最後に一つお願いがあります」


 ヘーゼルは虚ろな目でミゲイルに言う。


「何だ? 言ってみろ」


 ミゲイルはヘーゼルに耳を近づける。


「……死ネ」

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