第11話 激闘の末に
ミゲイルの背後から、先ほど切り落とした小手先が襲い掛かってきた。
「そうはさせるかっ!」
ミゲイルと小手先の間に盾を持ったエリザが割って入る。致命傷となったはずの一撃はエリザによって防がれた。
「エリザ、気絶してたんじゃないのか?」
ミゲイルは助けに入ったエリザに尋ねる。
「一瞬だけな。あの野郎、ぶった斬ってやる!」
エリザは盾を押し出して小手先を弾き飛ばす。宙を漂っていた小手先は糸が切れたように床に落ちた。
「チッ、労セズみげいるヲ屠レルトコロヲ……」
正気に返った振りをしていたヘーゼルがミゲイルの傍から素早く離れた。いつの間にか両手も元通りに再生している。
「ミゲイルさんよ、くどいようだがそいつはもう人間には戻れん」
アストラが首を横に振りながらミゲイルに言う。
「ああ、よく分かった……」
ミゲイルはさらに闘気を高めて再び剣を抜く。「今度こそ貴様を斬る!」
「俺様モソロソロ本気デイサセテモラオウ」
ヘーゼルはそう言って壁際に移動する。
「へっ、今までも本気だっただろ」
エリザはバカにしたように言う。しかし、戦斧と盾を構えて備えている。
「果タシテこれヲ見テモソンナ口ガ利ケルカナ?」
ヘーゼルは壁に掛けてあった槍を手に取った。
「マズい! エリザ、ヘーゼルから距離を取れ!」
ミゲイルは自らもかなりヘーゼルから離れた場所に退きながらエリザに叫ぶ。
「なにビビってやがる! あんな槍を持ったくらいで……」
エリザの言葉を待つ間も無く、ヘーゼルの槍がエリザの心臓に向けて突き出される。「!? うぉっ、危ねぇな、この野郎!」
素早く身を躱し、エリザは悪態を吐く。
「いいから下がれ! ヘーゼルが槍を持つとこれまでのようにはいかんぞ」
ミゲイルがエリザを急かす。
「蜂ノ巣ニシテヤル!」
ヘーゼルの槍が目にも留まらぬスピードでエリザに襲い掛かる。エリザは戦斧と盾で応戦しながら後退りする。
「これじゃあ迂闊に近寄れねぇぞ」
エリザはようやくミゲイルの位置まで下がってきた。
「奴はもともと重装歩兵。槍を持ったヘーゼルは
ミゲイルの真価は馬の上でこそ発揮される。馬に乗っていないミゲイルは本来の力を出し切れていないのである。もちろんそれでも大将軍、少々の
「ようやく私の番が来たみたいね」
デリルが満を持してゆっくりとミゲイルとエリザの間から顔を出す。
「おお、デリル! 得意の雷球を喰らわせてやれ!」
エリザがデリルを炊き付ける。「奴が痺れて動けなくなったら距離を詰めて叩き切ってやる! あの長物じゃ接近戦は出来ないだろう」
「待て、エリザ! そんな単純なやり方で……」
ミゲイルが止めるのも聞かず、エリザはウォーミングアップを始める。デリルの雷球がヘーゼルに当たった瞬間、距離を詰めるつもりである。
「いくわよ、それっ!」
デリルが得意の雷球を発動させる。バチバチと音を立てて雷球がヘーゼルに向かって飛んで行き、胸の辺りに直撃した。
「グ、グオォォォ……!」
悶絶するヘーゼルに向かってエリザが駆け寄る。
「トドメだぁっ!」
エリザが戦斧を振りかざす。
「ナンテナ」
ヘーゼルはそう言って駆け寄るエリザに短く持った槍を突き出した。
「くっ、騙された……」
エリザは苦悶の表情を浮かべる。ヘーゼルの槍はエリザの左上腕部を貫通したのである。エリザの持っていた盾が床に転がる。
「エリザ!」
デリルが悲痛な声を上げる。どうやらヘーゼルの全身鎧は魔法によるダメージを軽減するようである。雷球に限らず、火球や爆撃でも同じように軽減するに違いない。
「ハハハ、ヤット捉エタゾ!」
ヘーゼルが勝ち誇ったように言う。「心配スルナ、スグ楽ニシテヤル」
「なかなか……やる、じゃねぇか、へ、ヘーゼルさんよ」
エリザは脂汗を浮かべたまま軽口を叩く。
「フン。強ガルナ、死ニ損ナイガッ!」
ヘーゼルがぐっと槍に力を籠める。貫通した槍がさらに深くエリザの腕を抉り、エリザが絶叫する。
「言わんこっちゃない。見通しが甘すぎるんだ!」
ミゲイルが顔を覆うようにして嘆く。
「ミゲイルさん、私たちを見くびり過ぎよ!」
デリルは不敵に笑う。「エリザ、いくわよ!」
「おう! どんと来い!」
エリザは右腕をぐっと天に突き出す。
「それっ!」
デリルが先ほどよりも強烈な雷撃を飛ばす。
「デリルさん、ヘーゼルの鎧に魔法は……」
ミゲイルが呆れたように言う。しかし、雷撃はヘーゼルではなくエリザの戦斧に降り注いだ。
「ぐおぉぉ……、来ると分かってても痺れるぜぇ!」
エリザの戦斧がバチバチと帯電する。「くらえっ、サンダースラッシュ!」
エリザとデリルのコンビ技、サンダースラッシュが炸裂する。ヘーゼルは慌てて突き刺した槍を抜こうとしたが間に合わないと悟り、槍から手を放す。そしてそのままカウンターでエリザに拳を突き出した。
グシャッ!
一瞬早くエリザの戦斧がヘーゼルの左肩にザックリと食い込む。鎧を破壊した刃の先からヘーゼルに高圧電流が流れ込んでいく。
「グォォォォッ!」
ヘーゼルの身体から肉の焦げたような悪臭が立ち込め、ヘーゼルはその場で立ち尽くしたまま動かなくなった。
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