第7話 将軍 VS 勇者

「ん? なんだね、君たちは?」


 どうやら長身の男の方は相手がエリザである事に気づいていないようである。


「なんだね、だと? てめぇ! あたしが分からないのか!?」


 エリザは怒ったように長身の男に突っかかった。


「てめえ? この私にそのような口を利く女は……」


 男はそう言って、まじまじとエリザを見た。「まさかお前、エリザか?」


「当たり前だろ? すぐ分かれよ、ミゲイル!」


 エリザは男に近づいて肩を軽く小突こづいた。「二十年ぶりかぁ、全然変わらないな」


「お前は随分、巨大化したな」


 ミゲイルはエリザの二の腕を掴む。「むっ、どうやらただ太っただけじゃないようだな」


 そう、エリザは確かに若い頃と比較するとかなり肉付きが良くなった。しかしそれは屈強な筋肉と衝撃に耐えうる皮下脂肪なのである。そして、二十年前と明らかに違う筋肉量を瞬時で察知したミゲイルも只者ではない。


「ねぇ、エリザ。この人、誰なの?」


 アルは親しそうに話す二人に割り込むように言う。


「ん? ああ、こいつはミゲイル。あたしの元カレ兼師匠だ」


「誰が元カレだ、調子に乗るな」


 ミゲイルがエリザの頭をコツンと叩く。


「父さん、その方は?」


 同様にペディウスもミゲイルに尋ねる。


「ああ、こいつはエリザ。私がまだ将軍になる前、王都で一緒に冒険をしてたんだ」


 ミゲイルが言うと、ペディウスはエリザに向かって頭を下げる。


「息子のペディです」


「あ? ああ、エリザだ。そんでこいつがあたしと一緒に旅をしているアル」


 エリザはそばにいるアルを2人に紹介する。


「アルです。よろしくお願いします」


「アルくんか、随分と若いな。エリザの弟子って訳か」


 ミゲイルが言うと、


「まぁ駆け出しなのは間違いないけどな、でもこいつの親父はあの勇者フィッツなんだぜ」


 エリザは勝ち誇ったように言った。


「ほう、勇者フィッツの……。そういえばエリザはフィッツと共に魔王を討伐したそうだな」


「まぁな。そんで、今はこいつの修行の旅をしてるって訳さ」


 エリザはアルの頭をわしわし撫でながら言った。


「勇者フィッツの息子か。どれ、どの程度の腕前か、ちょっと立ち会ってみるか?」


 ミゲイルが言うとエリザが目をいて首を横に振る。


「ば、ばか言うな! あんたにかなう訳ないだろ?」


 エリザにそう言われたアルはちょっとムッとした顔をする。


「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃん」


 アルが言うと、エリザはアルの肩に手を回してミゲイルに背中を向ける。


「あのな、あいつは帝都の大将軍なんだぞ。絶対勝てないし、下手したら殺されるぞ?」


 エリザは小声でアルをさとすように言う。


「どうした? 勇者フィッツの息子は腰抜けか?」


 挑発するようにミゲイルが言うと、さすがのアルもカチンときた。


「立ち合いますよ、ミゲイルさん」


 アルはそう言ってぐいっと何かを飲んだ。エリザとペディウスは2人から少し離れた場所で固唾を飲んで見守る。


「そら、いつでも来い!」


 ミゲイルは両手を広げてアルを挑発する。アルは顔を真っ赤にしてすらりと剣を抜く。


「手加減しねぇぞ、おっさん」


 アルはそう言って地面を蹴った。


「げっ、あいつ、まさか竜の血を飲んだのか?!」


 エリザは豹変したアルを見て言う。


「おっと、なかなか鋭い踏み込みだな」


 ミゲイルはアルの剣を紙一重でかわして言う。


「へっ、まだまだこれからだぜ、おっさん」


 たて続けに剣を振るアル。そのひと振りひと振りが的確に急所を狙っている。


「うぬぅ、小癪こしゃくな小僧め!」


 ミゲイルはアルの猛攻を躱し続ける。しかし、アルの勢いは止まらず、じりじりとミゲイルを追い詰めていく。

 

「貰った!」


 アルはミゲイルの首をねるように横一線に剣を振るう。


「かぁっ!」


 ミゲイルはアルに向かって気合を飛ばす。アルはそのまま後方に吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。


「くっ、さすがだな、おっさん」


 アルは不遜ふそんな態度で言うが、次の瞬間、ミゲイルの雰囲気が変わった事に気付く。


「さあ来い!」


 ミゲイルは両手を広げてアルに言う。さっきまで傍若無人に振舞っていたアルだったが、雰囲気の変わったミゲイルに攻めあぐねている。ミゲイルは全身に闘気をまとっているのである。


将軍の闘気ジェネラルオーラ……」


 エリザがミゲイルの闘気を見て呟く。この世界では戦士系と魔術師系の職業があり、魔術師系が魔法を使うように戦士系は闘気を使う。闘気は身に纏えば鎧のような効果を発揮し、相手に飛ばす事で武器にもなる。もちろん、使いこなすにはそれ相応の修練が必要である。


「くそう、俺だって……」


 アルはそう言うと、剣に自らの闘気を注ぎ込む。アルの持つ剣が青白い光に包まれていく。


「ま、まさか! こんな若造が闘気を!?」


 ミゲイルは信じられないという表情でアルを見る。


「うぉぉぉっ!」


 アルはそのままミゲイルに飛び掛かる。


「きえぇい!」


 ミゲイルはアルの振り下ろす剣を、素早く剣を抜いて受け止めた。


「まさか! アルの奴、ミゲイルに剣を抜かせた!?」


 エリザは目の前の光景に驚きを隠せない。次の瞬間、ミゲイルが剣を振るとアルは信じられないほど豪快に後方に吹き飛ばされた。


「ぐえぇ……」


 吹き飛ばされたアルは木に激突してうめくような声を上げた。「ちきしょう! 俺の負けだ!」


 アルは仰向けに倒れて負けを認めた。

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