第3話 聖都からの帰還
「なんじゃ? 何か心配事か?」
ヴェラは考え込むネロに尋ねる。
「いや、もしも王宮が魔王を封印した場所を把握しているなら警備兵などを配備しているんじゃないかと思いまして……」
ネロはさらに続ける。「異変があればすぐに分かるはずですよね?」
「あっ、思い出した!」
突然、デリルが叫んだ。「そこ、帝都領だったのよ。だから王宮は手を出せなかったの」
なんでそんな重要な事を今の今まで忘れていたのか? やはりオータムやヴェラの指摘どおり、デリルの記憶にも問題はありそうである。
「帝都領……。皆さんは帝都と交流はあるのですか?」
オータムが尋ねる。
「ないわ。帝都って謎に包まれてるのよね」
デリルはエリザの方を見る。
「……」
エリザは何か考え込んでいる。
「エリザ! あんたはどうなの?」
デリルはエリザの肩を揺すって尋ねる。
「!? あ? ああ、交流は……ないぞ」
エリザは何やら含みのある言い方をする。デリルはネロとアルにも尋ねるが2人とも首を横に振る。
「ヴェラは? 誰か知り合いはいる?」
デリルはダメ元でヴェラにも聞いてみる。
「そうじゃなぁ、あれは三百年前じゃったか……」
「もういいわ」
デリルはさっさと話を切り上げた。
「帝都領には魔王に対抗できる組織はあるんでしょうか?」
ネロは不安そうに問う。
「まぁそんなものは王都にも無いけどね」
デリルは吐き捨てるように言う。王都にも帝都にも、当時は王国軍、帝国軍があったが、魔王軍と戦う事など想定されていなかったので全く歯が立たないのは当然であった。
それでも王都軍は魔王討伐後、魔物たちに対抗するための兵器や軍備の増強を行ったため、今なら魔王軍ともそこそこ戦えるようになっている。
「オータムちゃんが痩せた以外に何か魔王復活の兆候はあるの?」
デリルはオータムに尋ねる。
「魔物が狂暴化したとか暴走を始めたという話はまだ入ってきてません」
「こないだ王都に行った時も、いたって平和そうだったわ」
デリルは同意を求めてネロの方を見る。ネロも黙って
「どちらにしても警戒はしておいて下さい。間違いなく何かが起ころうとしているのです。ほら、この美しい姿を
オータムが両手を広げてドヤ顔をしたのでエリザは背中から
「今日はあんたに借りた
デリルはそう言うとばさっとマントを広げてオータムに差し出す。「ちゃんと水洗いしてアイロンもかけてあるから」
「はぁ?! どこの世界に不知火のマントを洗う馬鹿がいるのよ!」
オータムは大慌てでマントをひったくり、表も裏もしっかりと確認する。どうやら無事のようである。ほっと息を
「あははっ、魔道具を洗う訳ないでしょ。さっきのお返しよ!」
デリルは大笑いしながらエリザと一緒になって、大慌てでマントをひったくるところから寸劇のように真似をしてオータムを冷やかす。アルもネロもそのうち
「今はまだ魔王も復活したばかりで力を蓄えているのかもしれません。とにかく気をつけるのですよ」
オータムは不知火のマントを素早くたたみ、これまでのやりとりをリセットするように
「まぁ、まるで聖女様だわ」
「ほんとほんと。その調子ならどんな奴でも
デリルとエリザがオータムを挑発する。
「こほん、もう挑発には乗りませんよ。私からは以上です」
オータムはそう言って出入口に手を差し出す。「困った事があったらまた来なさい。困っているあなたたちを
「その時はわらわもご
ヴェラが言うとオータムはにっこりと微笑んだ。
「オータムさん、また来ますね」
ネロは笑顔でオータムに手を振る。
「いつでもいらっしゃい。あなただけなら大歓迎ですわ」
オータムが言うと、ネロは困ったような愛想笑いを浮かべた。
「結局、なんだかよく分からなかったわね」
デリルは大聖堂を出て歩きながら言う。生暖かい夜風が一行をすり抜けていく。
「魔王が復活した……」
エリザが
「かも、ですよ。確定じゃありません」
ネロが言い聞かせるように言う。エリザにと言うより自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「あっ! そう言えば、聖都を出るにはまたマーガレットに頼まなきゃいけないんじゃない?」
デリルが思い出したように言う。先ほど博士やヴァイオレットの件でマーガレットを怒らせてしまったので若干気まずい。
「大丈夫ですよ、あの人も頭を冷やしてると思いますよ」
ネロはそう言って疎通の魔法を飛ばしてみる。
(マーガレットさん、ネロです。聖都から出して貰いたいのですが……)
(ああ、ネロさん、先ほどは失礼しました。私もおとな気が無かったですね)
どうやらマーガレットも反省しているらしい。ネロはデリルにオッケーのゼスチャーでマーガレットが怒ってない事を伝える。
(いえいえ、それではよろしくお願いします)
ネロが言うと、一同の身体を淡い光が包み込み、あっという間に元の森の中に戻っていた。
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