第9話 聖女との再会

「まぁ! シメのラーメンだわ!」


 デリルは目を輝かせる。


「うん、やっぱコレがないと終わった気にならないよな!」


 エリザも目の前の大盛りラーメン、餃子、チャーハンを見て満足げに言う。シメのラーメンって……。どうやら餃子とチャーハンは物の数に入っていないらしい。付け合わせの漬物くらいの感覚なのだろう。


 二人はさっそくラーメンに箸をつける。麺にほどよくスープが絡み、口の中にもちもち触感の麺と鶏ガラのスープが旨味の洪水となって流れ込んでくる。夢中ですするデリルとエリザ。その光景を見ていると、すでに満腹のはずの他の者たちまで思わず涎が出そうになってくる。


 パリパリに焼きあがった餃子は羽根つきで、酸味の効いたタレで食べると中から肉汁がじゅわっと染み出し、もっちりした皮と口の中で混ざり合う。


 皿の上に山のように盛られたチャーハンも、大きな鉄鍋で丁寧に火が通されており、具材と米がしっかりと混ざり合って最高の仕上がりである。


「うまそうだな……」


 小食のノッポもあまりに美味しそうに食べる2人を見て思わず呟く。


「ご馳走様でした! あー、美味しかった」


 デリルは大満足の表情で箸を置いた。


「ごっつぉさん! ウマかったぁー!」


 エリザもスープを飲み干して、丼をテーブルに置いて満足げに言った。




「あら、もうこんな時間。そろそろ行ってみる?」


 デリルは壁の時計を見て仲間たちに声を掛ける。

 

「え? 何だっけ?」


 とろんとした目つきでエリザがデリルを見る。

 

「何言ってるんですか。オータム様に会いに行くんでしょ?」


 ネロが身支度を整えながらエリザに言う。もうすでにアルは支度を終えてエリザの荷物もまとめている。

 

「お、悪ぃなアル。後はあたしがやるよ」


 エリザはどっこいしょと腰を上げ、背負い袋と共に大きな戦斧せんぷを背負う。

 

「ノッポ、これから聖女様に会いに行くけど……」


 ネロはノッポに声を掛ける。

 

「あ? あぁ、それじゃ俺はそろそろ屋台に戻るぜ」


 ノッポはよそよそしい感じでネロに言う。

 

「え? 一緒に行かないの?」


 ネロが言うとノッポは目を丸くする。

 

「馬鹿言え! 俺みたいな底辺エルフが聖女様とご対面できるかよ!」


 ノッポは深くニット帽をかぶり直す。「それじゃ皆さん、俺はこの辺で……」

 

「それじゃ、またどこかで」


 デリルは笑ってノッポに手を振る。他のメンバーも同様にノッポを見送った。

 

「思ったよりシャイなんだな、アイツ」


 エリザが意外そうに言った。

 

「お前が図太いだけじゃ」


 ヴェラが悪態あくたいく。エリザはちょっとカチンと来たが、満腹中枢が満たされていたのでさらりと聞き流した。

 

「さ、行きましょう。マーガレット、いろいろとありがとうね」


 デリルがマーガレットにお礼を言うとネロたちもそれに続いて頭を下げた。

 

「いえいえ、私こそ、ご馳走様でした」


 マーガレットはゾロゾロと玄関に向かう一行と共に歩く。

 

「そう言えばヴァイオレットさんを見かけませんでしたね」


 ネロが不思議そうに言った。これほど各地からエルフが集まっているのに、博士もヴァイオレットも、弓部隊の連中も来ていないようだ。

 

「ヴァイオレット? ああ、あの弓部隊長ですね」


 マーガレットは思い出したように言う。「確か、フレッド博士の護衛をしているはずですが……」

 

「そうそう、遺跡を調査してるって言ってたわ」


 デリルが言うと、

 

「聖都の血税であちこち旅をして、いい御身分ごみぶんですわ」


 マーガレットが顔をゆがめる。どうやら、フレッド博士たちは聖都民にあまり良くは思われていないらしい。

 

「でも、今日も来てないって事は何か大発見があったのかもしれませんよ?」


 ネロがフォローするように言う。

 

「フレッド博士が遺跡調査に乗り出して二十年以上は経ちますがそんな大発見の報告は一度もありませんがねぇ……」


 マーガレットはおどけて両手を広げて見せる。

 

「マーガレット、あの人たちをそんな風に言わない方が良いわよ。あなたの品位が落ちるわ」


「……、分かりました。もう止めましょう」


 マーガレットは機嫌を損ねたのかデリルたちを邸宅から締め出すように外に出した。「くれぐれも聖女様に失礼のないようにお願いしますね」

 

 マーガレットは吐き捨てるように言ってばたんと扉を閉めた。すぐにガチャガチャと鍵を掛ける音が響き渡った。

 

「怒らせちゃったかしら?」


 デリルが不安そうに呟く。

 

「大丈夫ですよ、先生は間違っていません」


 ネロはそう言ってデリルの手を握った。

 

 

 

 謁見の間の前では近衛兵このえへいたちとひと悶着もんちゃくあった。何しろ前回は人間2人だったが、今回は5人もいるのだ。しかも巨熟女3人に少年が2人、これで怪しまなければもはや近衛兵とは言えまい。しかし、デリルが許可証を見せると近衛兵は呻きながらしぶしぶ道を開けた。


「聖女様にそそうのないようにな」


 近衛兵は精一杯の捨て台詞を吐いて扉を開けた。


 謁見の間には、パレードで見たままの美しい姿をした聖女オータムが微笑みを浮かべてソファに座っていた。果たして重大なお知らせとは何なのか?


 そんな事よりデリルは、オータムの変貌へんぼうぶりの謎を知りたくて居ても立ってもいられなかった。

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