第8話 出前迅速落書無用
「あれ? テーブルの上にあった食べ物がほとんどないわよ?」
デリルはまるで神隠しにあったように言う。それらは全てデリルたちのお腹の中にあるのだ。
「ほんとだ。まだ食べ始めたばかりなのに、どうなってるんだ?」
ようやくエンジンがかかってきたばかりのエリザが困ったような顔でアルを見る。
「わらわはもう十分じゃ」
ヴェラはデリルたちよりひと回り大きいが、人間の身体の時はエネルギーをあまり消費しないのでデリルたちほど食べる必要はない。とはいえ、成人男性三人分は平らげているが……。
「わたしも、ご馳走様でした」
マーガレットはそう言って、パック類や串などを片付けるための大きな袋をキッチンから持ってきた。
「屋台の料理じゃあまりお腹は
デリルはお腹をポンポンと叩きながら言う。
「じゃあ、僕たちがもう1回買ってきますよ」
ネロはアルとノッポに目で合図をする。
「ごめんね、ネロくん。じゃ、これ」
デリルはそう言ってお釣りで貰ったセイト紙幣を全てネロに手渡した。デリルがオウト紙幣ばかり使うものだから、お釣りのセイト紙幣も結構な額になっている。「全部使っても良いからおいしいもの買ってきてね」
ネロはノッポとアルを連れて再び屋台のある通りまでやって来た。
「先生もエリザさんも、まだまだ食べ足りないみたいですね」
ネロは屋台を物色しながら言う。
「どうなってるんだ、あの二人の腹は?」
ノッポが呆れたように言う。
「早くしないとオータムさんに会いにいく時間になっちゃいますね」
ネロはチョコバナナを五十本ほど購入し、アルに手渡す。
「おい、ネロ。今、誰と会うって言った?」
ノッポは聞き捨てならないといった様子でネロに尋ねる。
「え? ああ、オータムさんですよ。神官の人から伝言で、後で執務室に来るようにって……」
「お前、エルフでもめったに謁見できない聖女様に呼び出されたのか!?」
ノッポはありえないといった表情でネロを見る。アングラ気取りのノッポでもさすがに聖女には様を付けるらしい。
「僕が、じゃなくて、先生に用があるんですよ」
ネロはノッポが驚愕しているのを気にもせず、次々に屋台を回る。何しろ、デリルたちはお腹を空かせて待っているのだ。すでに三日分くらいの大量の屋台グルメを平らげているはずなのだが……。「いいから、これ持って」
ネロはノッポに大量のフライドポテトと唐揚げを渡す。業者か! と突っ込みたくなる量だが、先ほどのデリルたちの食べっぷりを見たノッポは黙って受け取った。
「ネロくん、ケーキとか買って帰ろうよ」
アルが提案する。なるほど、最後に甘い物を食べさせれば満足するだろうという計画である。しかし、ネロはちっちっちと指を立てて左右に振る。
「もちろんケーキも買いますが、それではあの二人は満足しません」
ネロはきょろきょろと辺りを見渡し、一つの屋台に近づく。「すいません、ラーメンと餃子大盛りで二つ。チャーハンもありますか?」
「アルヨ!」
元気いっぱいに、細い目をしたオリエンタルな店主が答える。「今から作るネ、チョト待つヨロシ」
「じゃあ先にお金渡しておくから、アソコに届けてくれる?」
ネロはマーガレットの邸宅を指差す。
「出前アルか、ワカたよ。すぐに届けるネ」
店主は張り切って鍋を振りながらお金を受け取った。
ネロは両手いっぱいにケーキを持ち、マーガレットの邸宅に戻った。
「おかえりネロくん。まぁ、おいしそうね」
デリルが満面の笑みを浮かべる。
「おお! 唐揚げも定番だよな、さすがアルだ。よく分かってる」
エリザがでかしたとばかりにアルの頭をわしわしと撫でる。
デリルとエリザはさっそく男性陣が購入した屋台グルメに舌鼓を打ち始める。さっき食べたのを忘れたかのようにガツガツと食べる2人を呆れた目で見るノッポ。ネロとアルは無邪気に食べるデリルとエリザを
「ふぅ、ケーキもおいしかったわね」
デリルはあらかた食べ終えたテーブルの上を寂しそうに見つめる。
「うん、うまかった、うまかった」
エリザも自らを納得させるように言うが、なんだか物足りなそうである。
「おい、やっぱりあれは余計だったんじゃないか?」
ノッポは二人の言葉を額面通り受け取ってネロに耳打ちする。
「ふふ、そう思うでしょ? 見てて」
ネロは勝算有りという表情でノッポに囁く。
「マイド! 出前アルヨ!」
威勢のいい店主の声がドアの向こうから聞こえてくる。マーガレットが不思議そうにドアを開けると、岡持ちを持った愛想の良い男性が現れる。
「あら、そんなの頼んでませんけど……」
露骨に迷惑そうにマーガレットが言うと慌ててネロが出ていく。
「いえ、すいません。僕が頼みました」
「ああ、お坊ちゃん! 注文の品、
店主がほっとした表情でネロを見る。
「なになに? 何の騒ぎなの?」
デリルは不思議そうに玄関先の様子を
「なんか出前がどうの言ってたぞ?」
エリザも黙って成り行きを見ている。
「お待たせアルね!」
元気いっぱいに店主が二人の前に顔を出す。そして岡持ちの中から出来立てのラーメン、餃子、チャーハンを取り出した。
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