第7話 錚々たるメンバー

「ネロ、まだ見てない出店もあるだろ? 案内してやるよ」


 ノッポはそう言ってふとネロの連れを見回した。デリル以外は初対面である。


「皆さん、僕の友だちのノッポです」


 ネロは仲間たちにノッポを紹介する。巨女二人と少年一人、エルフの女もいる。ノッポは照れ臭そうに頭を下げる。


「変わった取り合わせだな」


 ノッポはこっそりとネロに耳打ちした。


「あの人が二十年前、先生と一緒に魔王を討伐した女戦士のエリザさん」


「魔王を討伐した? 何を言ってるんだ、魔王を討伐したのは勇者フィッツだろ?」


 ノッポは鼻で笑う。


「そうよ、私とエリザ、それからアルくんのお母さんのマリーと一緒にね」


 デリルが事も無げに言う。


「今、話に出てきたアルさんっていうのがあの人です」


 ネロはアルを指しながらノッポに説明する。


「……って事はあのアルって奴は魔王討伐メンバーの息子って事か?」


「っていうか、勇者フィッツの息子さんだよ」


 ネロの言葉を聞いてノッポがのけ反る。目の前に伝説の勇者の息子、そして当時の討伐メンバーが2人もいるのである。「で、あの人が……」


「わらわの名はヴェラじゃ」


 ヴェラがノッポに自己紹介をする。


「……おい、ネロ。あの人、偶然にも伝説の臥竜がりゅうと同じ名前なんだな」


「まぁ、本人だからね」


 ノッポは次々に降り注ぐ情報の渦に飲み込まれ、パニックにおちいった。勇者と共に魔王を討伐したメンバーと勇者の末裔まつえい、その上、悪名高き伝説の臥竜が目の前にいるのである。


「ネロ、かなりの修羅場をくぐり抜けているとは思ってたが、予想を遥かに超えてきたな」

 

 そりゃ、路地裏でゴロツキに取り囲まれた程度じゃ動じないはずだ。ノッポは初めてネロに会った時の事を思い出して苦笑した。


「あんたもお昼まだでしょ? 一緒に食べましょうよ」


 デリルがノッポを誘う。


「良いんですか? ではお言葉に甘えて」


 ノッポはデリルに頭を下げる。


「よし、これでまだまだ買えるぞ」


 エリザが両手いっぱいの食べ物をノッポに渡しながら前方の屋台を見回す。


「え? こんなに買ったのか?」


 ノッポは両手にずっしり乗せられた食べ物を見て目を丸くした。見ているだけで胸焼けしそうなジャンクフードたちである。チラッと見るとアルも両手に荷物を抱えている。


「多分、皆が持ちきれなくなるまで買うと思います」


 目が合ったアルが苦笑いを浮かべてノッポに言った。

 

「まずはこんなもんだな。どこで食べるんだ?」


 全員の手が食べ物でいっぱいになった頃、エリザがおかしな事を言い出した。大家族でも1週間は食べきれなそうなジャンクフードの山を目の前にして、まずはこんなものとはどういう意味だろう? ノッポはエリザとデリルの食べっぷりを知らないので混乱していた。


「あら、公園は人でいっぱいね」


 屋台の並んだ大通りのそばに大きな公園があるのだが、レジャーシートを持ち込んだ家族連れや団体客にびっしりと埋め尽くされていた。


「うーん、場所取りしておくべきだったわね」


 デリルは困ったように公園を見回した。1人、2人ならなんとかなりそうだが、この人数ではどうにもならない。


「よろしければ私の家で食べませんか?」


 マーガレットが提案する。


「いいの? じゃあマーガレットのおうちへ行きましょう」


 デリルたちはゾロゾロとマーガレットの屋敷に向かって歩き出す。屋台を渡り歩いて来たのでマーガレットの屋敷まではさほど距離は無い。


 マーガレットの屋敷に着いた一行はさっそくテーブルの上に買ってきた食べ物を並べる。ようやく荷物から解放された男たちはふーっとため息をいた。


 焼きそばに始まり、焼き鳥、クレープ、ホットドッグ、ポップコーン、ケバブ、イカ焼き、焼きとうもろこし、りんご飴や綿菓子など、屋台で目についたありとあらゆる食べ物が山積みされている。


「それじゃ、さっそくいただきましょう!」


 デリルは目の前のジャンクフードの山を見てテンションが爆上がりしている。エリザもヴェラもさっそくガツガツと食べ始め、遠慮がちに男たちが焼き鳥辺りから手を付け始める。


「屋台といえばやっぱり甘辛いソースの味よね」


 デリルはイカ焼きを一気に口に放り込んで咀嚼そしゃくする。


「とうもろこしもいい味出してるぜ」


 エリザが焼きとうもろこしにかぶり付く。とうもろこしの甘い汁が弾けて香ばしいタレと最高のハーモニーをかもし出す。


「焼きそばというのは旨いもんじゃのぅ」


 ヴェラは初めて食べる焼きそばを気に入ったらしく、すでに三パック目に入っている。


「では私も頂きます」


 マーガレットが遠慮がちに焼きそばの容器に手を伸ばす。デリルたちの食べっぷりに圧倒されているのは男性陣だけではなかった。


「ホットドッグも美味しいわ」


 デリルがかぶり付くとパンに挟まれたプリプリのソーセージがプチンと弾けて中の肉汁がじゅわっと染み出し、マスタードとケチャップに混ざり合って口の中に旨味の洪水が流れ込む。


「凄い食べっぷりだな。大食い選手権に出られそうな勢いだ」


 ノッポはデリルたちの平らげるスピードに目を回しそうになっていた。


「大食い選手権かぁ……。もう少し若けりゃ優勝出来たんだろうけどなぁ」


 エリザが残念そうに言うとデリルが笑う。


「あはは、あんたは若い頃、大食い大会荒らしで出禁になったじゃない」


「うるせぇ! お前もだろうが!」


 大抵の町ではお祭りの催しとして大食い大会が開かれる。そこに飛び入り参加しては優勝、準優勝を二人で争っていたデリルとエリザ。その頃はまだ若かったのでいくら食べてもスリムな体型を維持していた。しかし、徐々に代謝が落ちて肉が付き始め、二人ともあっという間に三桁の大台に乗ってしまったのだ。

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