第4話 パレード!?

「それよりなんなの、あのメイン通りの人だかりは?」


 デリルがマーガレットに尋ねる。大人しいエルフたちが普段からあんなに賑やかに生活しているとは思えない。

 

「そう! 実は、今日は十数年ぶりに聖女様が壇上でお話されるんです!」


 マーガレットが本当に嬉しそうに言うと、

 

「「えっ?!」」


 デリルとネロが絶句する。何しろ二人は聖女が姿を現さなくなった理由を知っているのだ。マーガレットによると、壇上でスピーチをした後、街中を神輿みこしに乗ってパレードするらしい。

 

「どういう事? あれから数日しか経ってないわよ」


「ぼ、僕にも分かりません。一体どうするつもりなんでしょう?」


 二人はひそひそと話した。聖女オータムはデリルたちが魔王を討伐した後、解放された良質な魔力を吸収しすぎて肥満化してしまったのだ。それからずっとおおやけの場には姿を現さなくなっていた。

 

「そろそろ聖女様のお話が始まります。皆さんも是非聞いて下さいませ」


 マーガレットは聖都の入出管理責任者をしている。そのため、一般市民が立ち入り禁止のエリアでも簡単に入る事ができた。デリルたちはマーガレットの案内により、大聖堂の壇上のすぐ傍まで来る事が出来た。

 

 朝から解放された大聖堂の大広間には立錐りっすいの余地も無いほどたくさんのエルフが十数年ぶりの聖女の登場を今か今かと待っていた。大聖堂に入りきれないエルフたちはそこからずらりと大聖堂の外まで長蛇の列を作っている。

 

 パレードを良い位置で観るためにメインストリートの両側にもたくさんのエルフたちがびっしりと列を作っている。

 

「す、凄い人気ね、でもどうするのかしら……」


 デリルは期待よりも不安の方が強かった。

 

「皆の者、静粛に! 聖女オータム様のおな~り~!」


 壇上の両側に立っている甲冑姿の近衛兵このえへいが大声で叫ぶ。群衆は期待に胸を膨らませ、聖女の登場を今か今かと待っている。

 

 ついにステージの奥から聖女オータムが姿を現した。どよめく群衆、そして……。

 

「あ、あれが、オータム!?」


 デリルはあんぐりと口を開け、静々と壇上に向かって歩く美しい女性を見上げていた。金髪碧眼きんぱつへきがん肌理きめの細かい白い肌。そして何より、エルフらしいすらりとした美しいスタイルで真っ白なドレスに身を包んできらびやかなティアラを付けている。

 

「おお、相変わらずお美しい!」


 マーガレットが眩しそうにオータムをじっと見つめる。オータムは壇上に上がり、全員を見回すように右から左へと顔を動かす。

 

「皆様、大変ご無沙汰しておりました。聖女オータムです」


 オータムの声を耳にした群衆は一気にボルテージが最高潮に達し、どっと歓声が上がった。

 

「「「「聖女様、ばんざーい!」」」」


「長い間、皆様の前に姿を現さずご心配をおかけしました。これからは出来る限り皆様と共に大聖堂、そして聖都の為に歩んでまいります」


 壇上の美しい聖女様は良く通る美しい声で群衆に語った。

 

「ちょっと、アレ、誰よ? もしかして替え玉?!」


 デリルは今、目の前で見ている光景がどうしても信じられなかった。つい先日まで自分とほとんど変わらない体型だったあのオータムが、まるで別人のようになっているのである。


「でもほら、あの背中のほくろ、間違いなくオータムさんですよ!」


 ネロは広く空いたドレスの背中を指差して言う。目を凝らしてみると、左の肩甲骨の下辺りにぽつんとほくろがある。


「なーんでネロくんがあんな所にあるほくろを知ってるのかしら?」


 デリルはジト目でネロを見つめる。先日、二人でオータムと謁見した時には全身を包む形のローブを羽織はおっていた。あんな位置にあるほくろをネロが知っているのは不自然である。


「え、あ……、それは、そのー……」


 ネロが脂汗を浮かべてしどろもどろになる。やはり秘伝の術を伝授される際に如何いかがわしい事をしていたようである。デリルは懲らしめるようにネロのお尻をぎゅっとつねった。


 オータムは挨拶を終えると、すぐ傍にあった神輿に静々と乗り込む。近衛兵二人がそれに続いて神輿に乗り込んでいく。

 

 神輿と言っても何も担ぎ棒を肩に担いで人力で移動するタイプの物ではない。二頭の白馬によって引っ張られる馬車のような作りになっている。三人が乗り込んだのを確認した御者ぎょしゃが馬を歩かせ始めると、神輿を乗せた馬車がゆっくりと進み始めた。

 

 笑顔で沿道の人々に手を振るオータムの姿は実に神々しく、まさに聖女そのものであった。デリルたちが遠ざかる神輿を呆然と見つめていると、一人の神官がデリルたちに話しかけてきた。

 

「デリル様ですね? 聖女様よりご伝言をたまわっております」


 神官はデリルたちが自分の方を見たのを確認して話を続ける。「後ほど執務室に来るようにとのおおせにございます」


「オータムちゃんが?」


 デリルが呟くと、神官がじろりとにらむ。聖都の頂点である聖女に向かってちゃん付けなど言語道断である。デリルは慌てて言い直す。「せ、聖女様が私に何の御用かしら?」


「こほん、何やら重大なお知らせがあるとおっしゃられておりました」


 神官は懐から何やらお札のような物を取り出し、デリルに手渡す。「執務室の入室許可証です」


「あ、ありがとう。じゃあ後で行ってみるわ」


 デリルは許可証を受け取った。神官は深く頭を下げてその場を去った。


「だから言ったじゃないですか。ちゃん付けはまずいって……」


 ネロに言われてデリルは申し訳なさそうに頭を触った。

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