第2話 疾風怒濤
ヴォルフはデリルたちを以前通した大部屋に連れてきた。大きなテーブルを挟んでヴォルフとゲレオンがデリルたちと向かい合わせに座る。デリル、ネロ、エリザ、アル、ヴェラが横並びに座り、それぞれの前に冷たい飲み物が用意された。
「……と、まぁそんな訳でヴェラが仲間になったのよ」
デリルはかいつまんで事の経緯を説明した。怯えていた二人もデリルの話を聞いてようやく安心する。
「それにしても、まさかかの有名な伝説の
ヴォルフは感心してアルに言った。アルはちょっと照れたような顔をしながら目の前に出された冷たいアップルジュースを口にした。
「たいした奴だよ、アルは」
エリザは自分が褒められたように嬉しそうにアルの頭を撫でた。「お陰でこれからは快適に旅が出来るってもんだ」
「私もいちいちエリザに呼び出されずにすむわ」
デリルは冗談っぽく笑いながら目の前のアイスコーヒーに手を伸ばした。いつものように砂糖とミルクたっぷりのブラックコーヒー(?)である。「本当に大変だったんだから。ねぇ、ネロくん?」
デリルはオレンジジュースを飲んでいるネロに声を掛ける。突然、話題を振られたネロが驚いてジュースを吹き出しそうになる。
「まぁそう言うなよ。これからは何かあったら駆けつけるからさ」
エリザはデリルを
「それは殊勝な心がけじゃな。わらわに頼らず己の足で駆けつけるのじゃぞ」
ヴェラが冷水をぶっかけるような事を言う。
「コイツ! 話が違うじゃねぇか! 仲間にしたらあちこち飛んで連れて行くって約束だったろ? 」
エリザはヴェラに食って掛かる。ヴォルフとゲレオンはハラハラして二人のやり取りを見ている。伝説の臥竜に
「辻馬車のように使われては迷惑じゃ。アルのためならいくらでも飛んでやるが、お前はそのついでだと言うことを忘れるでない」
ヴェラはそっぽを向いてアイスミルクティーを飲む。
「てめぇ、あたしとアルは二人で一つなんだ! あたしが行くなら当然アルも来るんだよ!」
エリザがアルの腕を引っ張る。それを見て負けじとヴェラも反対側からアルの腕を引っ張ろうとする。
「……二人とも、仲良くしないと怒るよ」
アルが下からポツリと呟いた。
「お、怒るなよ、アルぅ。喧嘩は止めるからさぁ……、なっ、ヴェラ?」
「そ、そうじゃな。わらわもちょっと大人げなかったようじゃ」
怒るよ、のひと言で狂暴な二人がオロオロする様子を見て、ヴォルフたちは度肝を抜かれた。こんな小柄な少年が、巨熟女二人をしっかりコントロールしているのだ。これが勇者の
「さてと、そろそろ行こうかな」
デリルが
「なんじゃ? もう行くのか?」
ヴォルフは残念そうにデリルを見る。
「もう少しゆっくりしたいんだけどさ、今日は聖都にも行くからね」
デリルはコップの中に残ったアイスコーヒーを飲み干す。妖精の村はケルベロス騒ぎの
「ゲレオン爺さん、今度はあたしの武器も作ってくれよな」
エリザが言うとゲレオンは先ほどまでの
「アイツの武器にドラゴン特効なんて付けたらただじゃおかんぞ」
エリザとネロが去った後、ヴェラは念を押すようにゲレオンに耳打ちした。
「ひえぇっ! もう二度と竜殺しの武器は作りませんので、この集落を滅ぼすのだけはお許し下さい!」
ゲレオンはブルブル震えながらヴェラに懇願する。隣にいたヴォルフも同情を誘うような表情でヴェラを見上げる。
「ふんっ。考えておこう」
ヴェラはそう言い残してアルたちの後を追った。
「何やってるんだ、ヴェラ! お前がいないと出発出来ないんだぞ!」
集落の広場で待っていたエリザが後から出てきたヴェラを急かす。少し遅れてヴォルフたちも出てきた。
「それじゃ、またね」
デリルがヴォルフたちに手を振る。ヴォルフたちがデリルの方に気を取られていると、目の端に強烈な光が差し込んだ。驚いて光った方を見ると、ヴェラが巨大な竜と化していた。またしても腰を抜かしたヴォルフとゲレオンを尻目にアルとエリザが手慣れた様子で竜の背中に乗る。
「それでは失礼します」
アルは礼儀正しく頭を下げた。ヴェラが翼をはためかせると突風が辺りを包む。吹き飛ばされそうになったヴォルフたちはお互いにしがみついて何とか
「ヴェラ、こっちよ」
すでにデリルとネロは箒で上空にいた。ヴェラを先導するようにデリルが飛び始める。2つの影はあっと言う間に空の彼方へ消えていった。
辺りはしーんと静まり返り、ヴォルフとゲレオンだけが残された。
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