冒険者の仕立て屋さん『外見偏差値カンストオーバーの彼女は、今日も愛の言葉を真に受けてくれない』爺さんの未練のために、異世界で一番の名店「コンビニ」に。いつか、行けたら良いな。
第15話 かんすとおーばー【ざまぁ(する)回】2907文字
第15話 かんすとおーばー【ざまぁ(する)回】2907文字
マッゾ・スパンキングは驚愕の表情で、その名前を聞いた。彼はフリッグスにおける副首長で、実の兄であり、首長であるヒスト・スパンキング首長の実弟だった。
耳を疑う名前に、彼は自らの右腕である執事に、苛立たちげに辛辣に問い正した。
「もう一度言え、誰がこのフリッグスの要である。ナレス宮廷に来たと?」
「は、ミュレーナ・ハウゼリアと名乗る冒険者様と、その御一行様です」
彼はジャーニーゲームに多額の賭け金で参加していた。聞き覚えのあるすぎる名前に、悪事を見透かされた気がして、胃炎持ちの胃がぎゅうぅと悲鳴をあげた。
「お、追い帰せェ! そんな奴は知らん!!」
「で、ですが、とんでもない美貌の持ち主でして、こちらの手紙をお渡しして、600数える内に、首長、副首長様と面会できなければ、帰るとぉ……」
「な、なにぃ……?」
封蝋を切って中から取り出した手紙には、ミュレーナがこれから行く避難先を教えるとだけ綴られていた。
「…………丁重にもてなせ」
「え……?」
「さっさとしろ! 帰られでもしたら、貴様を首にしてやる!!」
「は!? はぃいい!!」
大慌てで迎えの準備をする執事を尻目に、自身も咥えていた葉巻を握り潰し、生真面目に机の上の政務を一区切りつけると、半ば駆けるような早足でマッゾ・スパンキングは応接室に足を向けた。
彼の表情は動揺とにじみ出るような怒りに満ちていた。同時に、為政者としての冷静な部分では、これはまだチャンスだと想定し始めた。
なにせ賭けの対象そのものが、交渉に来てくれたのである。小娘1人、口車で抱き込むなど造作もない。なんなら分前を大幅に払ってやっても良い。彼は勝ったも同然の賭けに、ほくそ笑んだ。
そんな下衆めいた嫌らしい思惑は、彼女を一目見ただけで吹き飛んだ。
妖精が居る。決して人の目に捉える事の出来ない、本物が居る。
計り知れない価値を宿した、金の髪。この世に2つと存在するか、妖しき銀の宝石眼。並の彫像を遥かに超える究極の肢体。一目見ただけで、もはや一生夢にまで見てしまいそうな
物憂げな面差しさえ、諸人の時を忘れさせる。
服装は、服装だけは格式高い精霊服だ。辛うじてまるで見合わぬそれが、彼女が人の世にある者だと物語ってくれていた。
世界には、決してみだりに触れてはならない。汚してはならない。踏み込んではならない。損なってはならない美学という物が存在する。
例えるなら前人未到の
完璧な美であればあるほど、自然から産み出された生き物は、それらが汚される事実に恐怖する。まして、自ら汚せば、それは一生断つことすら叶わぬ大罪である。
マッゾ・スパンキングは俗物だった。圧倒的な存在を前に、ただ少しの時間呆けることしかできなかった。
「ごきげんよう」
「あ、ああ、ごきげんよう」
ミュレーナの挨拶に反応するまで、たっぷり数秒。生返事をオウム返しして、ようやく彼は為政者としての思考を取り戻せた。
状況は、彼にとって最悪だった。彼女を守る冒険者たち2名を彼は知っていた。世界にたった30人。その中で上位序列6位と9位。国連認定冒険者。鋼砕き。ただ1人で国複数を滅ぼす事を、世界に認定された、力持つ個人。
その格言に次ぐ力をほしいままに体言する。我が自由都市同盟領が誇る両翼が、彼女を守っている。
故にこの時点で謀り事を行うのは無しだ。最低でも沈黙を貫き、先鋒に帰って頂くしか無いと彼は腹を決めた。
「本日は私が出資させて頂いている。オレンジガベラ強盗事件について、首長様、副首長様にお話させて頂きたい事があって参りました。誠に身勝手ではありますが急な来訪、どうかご容赦下さい」
「むっ……その件でしたか」
クックはマナギ。ララン。ミュレーナに目配せすると、ミュレーナの後を引き継いで本題を切り出した。
「俺達は団長の名代としてここに来ている。その上で手早く話させて貰おう。ナヴィア帝国だな?」
マッゾ・スパンキングは一見動揺しなかった。ただ静かに茶を飲み、胃炎持ちの胃袋を鎮める事に注力した。逆に言えば圧倒的存在感を持つ3名のせいで、彼はそれしかできなかった。
「金の動いている量や、政治的、軍事的に可能かどうかを見極めてりゃ嫌でも絞れるってもんだ。呆れる以前に度胸があって感心するがな」
「まあ火遊びですよね。仮にも団長の足元で、駐在軍と本国含めてたった10人の鋼砕きでやるには、彼女にとってはただのおいたですよ」
クック頭目の軽度に呆れるような言葉を引き継いで、マナギは逆に本当に感心するような声で話を進めた。
マッゾ・スパンキングは特に反応を示さなかった。軽く腹のあたりを指でなぞるだけだった。
「だから、政治的に後腐れが少なく、成り上がりのミュレーナさん……姫さんを標的にした。失敗してもこちらの内政は引っ掻き回せるし、あわよくばマッチポンプで彼女の持つ莫大な遺産の権利。途方もない美貌を手に入れるために」
「遺産は一応段階的に寄付する予定ですし、私はただの冒険者で居たいんですけどね……」
「私も同感ねぇ……」
「それで、私にどうしろと?」
「この際、副首長様が賭けに乗っていようがいまいが、公費でも注ぎ込んでいない限り、もう個人程度の問題ではありません。どちらかと言うとこちらの総意は、仮想敵対国と仲良くして頂いてご苦労さまですと言った所です。ですが、これから起こる事は、もうおわかりですね?」
「失礼……」
マッゾ・スパンキングはとうとう用意していた胃薬を飲み下した。幾分かスッキリした表情で、マナギの問いかけにしばらく考えたあと答えた。
「情報網の撹乱。誤情報の流布……か」
彼ら冒険者は全員薄く笑うだけで、マッゾ・スパンキングの呟きには誰一人答えなかった。彼は深いため息を付きながら額を両手で覆い、これからどう対処を行うかを思案し始めた。
「私はノルンワーズに近日中に避難に向かおうかと思います。では本日のお話はこれまでとさせて頂きます。今日は多く出回らなければならないので。本日は貴重なお時間を、誠にありがとうございました」
「…………火事に、なりますな。この街は」
マッゾ・スパンキングが所感を述べると、立ち去りかけていたミュレーナの足が止まった。彼女は振り返らずに告げた。
「この街の住人であれば、火には慣れていらっしゃいますよ。よくご存知の通り」
その日、ミュレーナ一行はフリッグス中の資産家と対面し、直接対面できない相手には、避難先の綴られた手紙をもう一通手渡して対応した。
手渡した手紙には、どれ1つとして同じ行き先は綴られていなかった。
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