冒険者の仕立て屋さん『外見偏差値カンストオーバーの彼女は、今日も愛の言葉を真に受けてくれない』爺さんの未練のために、異世界で一番の名店「コンビニ」に。いつか、行けたら良いな。
第4話 きかくがいひん【戦闘回】2633文字
第4話 きかくがいひん【戦闘回】2633文字
ぐるりと丘を越えて、平たく段差のある台地の頂上付近に辿り付いた。まるで広い舞台場のように切り立った台地だ。下はまっすぐ崖のようになっていて、落ちれば落下死は免れないだろう。
話し声がここからでも聞こえた。外国の訛か、妙にサバサバした声が聞こえてくる。
「さ、今日も今日とて発掘するで、ここに居ても一文の得にも……だれや?」
既に全員抜刀して、弓をいつでも撃てる体勢で慎重に近づいたが、クリスの金属鎧の音と、グリンの体格で気づかれたようだ。
俺とそう身長が変わらない。額の短い角。真っ赤な顔。鋭い乱杭歯。手には杖を持ち、ローブを身につけているそいつは、巫山戯たような、見ているだけで苛立つ猿のお面を被っている。
オーガだ。にしては随分小さい。ローブの上からでも発達した筋肉は分かるが、それでも人食い鬼と呼ばれる凶悪な妖魔には、少し見えない。
奴は多くのゴブリンに指示を出して、良くわからない大きなシャベルのような器具を、運ばせる気だったようだ。
「オーガ、喋れるのか……?」
「いかにもオーガや。猿鬼言いますねん。あんたら何用や?」
「こっちは冒険者だ。妙なゴブリンがここに来ただろ?」
「ああ、さよか。見たんなら、死のか」
何でもない事のような、平坦で淡白な殺意を奴からは感じた。猿鬼が杖を地面に突くと、いきなり崖下から地響きが響き渡った。
俺の身長程もある頭部が、ぬっと崖の向こうから現れやがった。
「て、鉄機兵!?」
「いかにも。じゃ、あと任したで、さいなら〜」
「待ちやがれ!?」
俺とクリスで矢を応射したが、猿鬼は一切躊躇わず鉄機兵と入れ替わるように、崖下に落下して行った。
先程見た鉄機兵と同じくらいの大きさの、青い1つ目の巨体が、崖をよじ登ろうとしている。
多くのゴブリンも気勢を上げながら迫る。最初の一匹が、いち早く襲いかかってきた。
「はぁ!」
「ギャ!?」
クリスは弓のほうを叩きつけて、大盾を構えて近接戦闘を開始している。鉄機兵が剣を構えて暴れ始めた。まるで手足で地団駄を踏むような、無茶苦茶な動きだ。乗ってんのはまさか、数匹のゴブリンか?
「加護ぞ、あれ……!」
クリスが祈りの言葉と共に神力を全開にして、鉄機兵の一撃を大盾で捌いた。上手く流したが、膂力が違う。腰の入った一撃でも貰えば、全員呆気なく台地から落とされかねん。
「オラァ!! 守ったら負ける。攻めるぞ!」
矢で弓を使わず、直接ゴブリンの頭部を矢で攻撃して、蹴っ飛ばしながら姫さんに目配せした。それだけで、彼女には伝わった。
確信する。彼女が、切り札を切る。
「
姫さんが呪文を囁く。杖がメキメキと軋みを上げて巨大化し、地面に根を張って張り付いた。
同時に劇場を思いっきりハイヒールの踵で叩きつけるような。水底にこそ響くような、静謐な拍動が響き渡る。
魔力操作による液体操作。空気中の水分密度が、半ば大樹とか化した大杖の先に、鼓動のような響きと共に、異様に膨れ上がっていく。
「
しゃりん。と、音が響く。
次いで、身につける4つの輪の内。左腕の腕輪を振って、更に水分密度が膨らんで行く。
過剰な力の奔流に溢れ出た余波が、衝撃に地平砕き、巻き上げ、縦横無尽に大地を削る。
まるで、地上から天に逆登る。水の雷竜。
「
力を、解き放つ。
幾重にも編み重なった壮絶な水の雷撃が、大地を次々に打ち砕き蹂躙していく。ゴブリンたちは必死に逃げ惑うが、圧倒的速度と圧倒的水量で、大地ごと大穴を空けて粉砕されてく。だが……。
「嘘……! これでも攻め切れない!?」
鉄機兵は水雷の直撃に、最初こそ体勢を崩しかけたが、思いっきり両腕の剣で打ち合って見せた。弓矢で援護するが、頭部の1つ目に当たっても効果は薄い。
万事急須だ。このままでは姫さんが魔法ごと潰されちまう。ならば……!
「クリス! アレをやるぞぉ!!」
「任せろ」
クリスが俺と同じく左腰に装備した専用の容器から、何も書かれていない値札を剥がし、大型のスクロールを1枚展開させた。
刻印された呪文が紙の上で淡く輝く。魔法陣が宙に浮かび上がる。
「悪いがもう止められんぞ、値札はたった今剥いじまったんでな……!」
研究の過程で数多生まれては消えていった、危険すぎる愛すべき廃棄品たち。その1つ。
ゴブリンから拝借した斧を強く握り込む。
「喰らいやがれ、この一撃は!」
その幻影たる一撃が、今、巨兵を凌駕する。
「巨龍の一撃!!」
魔法陣に、斧を思いっきり横に叩きつけた。衝撃は何千倍にもなって、空間そのものを蹂躙して突き進む。
あまりの衝撃に音が数拍遅れて轟いた。衝突時の衝撃が強すぎて、一瞬無音になる現象が起きる。反動がデカい。飛ばされないように、必死になって伏せて踏ん張る。
鉄機兵は咄嗟に剣で衝撃波を受けたが、上半身と下半身を剣ごと泣き別れされて、余波を受けたゴブリンたち共々バラバラに吹っ飛んでいく。
衝撃波は止まらず、反対側の台地を丸ごと貫通して、盛大に崖崩れを引き起こしていた。
「ハハッ、またとんでもないのを作りましたね……!」
「まだ色々足りねえ品さぁ!」
雷や水、炎や土で攻撃する魔法は、詰まる所射出するのが大前提だ。
ならばそれのみを追求すれば、極限の攻撃魔法が生誕するのではないか、というのがこのスクロールのコンセプトだった。
シンプルかつ緻密な呪文刻印を俺とクリスで書き綴って、何度も死にかけて改良と失敗を重ね。時にわざと壊してまでして、ようやくここまで漕ぎ着けた一品だ。
だが改善しなければならない点は多い。実質俺とクリスの専用品になっている。お客様に身を守る武器として、万全の体制で売り出すには課題が多すぎて、夢のまた夢の更に夢だ。
崖下の探索を丁寧に行ったが、猿鬼の足跡などの痕跡は残念ながら見つからず、日も落ちるので探索を断念せざるおえなかった。
俺達は小屋に戻り、一晩を明かす事になった。
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