第3話 しろいぬの【伏線?回】2065文字

「グリン! いじわる、おすわり!」


 姫さんの指示を受けて、小屋の扉の前に四肢を折り曲げ、グリンがごろりと座り転んた。

 小屋の中に居た一匹のゴブリンは、必死に扉を叩いたが、グリンが邪魔で外に出れなかった。

 仕方なく窓から飛び出た所を、容赦なくクリスのレイピアが、側頭部を鋭く貫いた。この場に動くゴブリンは、一匹もいなくなった。


「…………トロルか?」

「違う」


 クリスが真っ先に、警戒しながら傷の治ったゴブリンの血液を調べた。トロルのように、異様な油分で傷が塞がった訳では無いらしい。

 クリスは元リインカー医療教会の神官だ。個人的な魔術教会の繋がりも何故か深い。その彼が見誤ると言うことは無いだろう。


「異常はない……」

「うわっ。コイツも治ってやがる」


 粗末な斧を拝借している内に気がついた。俺に片腕を斬り飛ばされて気絶したゴブリンの腕も、肩ごと生え変わって治っている。

 魔術や祈祷でも、こんなに早く治る訳が無い。傍らには、切り離した腕だってしっかり転がっている。なんだってんだ、一体……?


「……捕縛しましょう。それしか無いでしょ?」

「……だな」


 小屋の柱にくくりつけて、動けそうなゴブリン達をロープで捕縛していく。再生したのは俺の倒したゴブリンだけで、他は特に傷が治る事は無かった。


「噂」

「噂って、あれか?」


 最近酒場で話題の噂。倒したはずの妖魔が、独りでに再生する。事実目を逸らした隙に腕は生えていたが、とても目の前の事が信じられなかった。


「グ………アア…………ぁ!」

「……! 一旦離れよう!」


 見れば、気絶したゴブリン達は白目を剥いて、苦しそうに喘ぎ始めた。何かヤバい病気か、薬かも知れない。

 感染しては危険だ。慌てて全員で下がると、ゴブリン達は足元から真っ白くなっていき、輪郭もぼやけて妙な白い布のように全身が変化していった。


「…………グリンと同じ魔法か?」

「招霊呪文に、しては……?」


 専門の姫さんでもわからないらしい。剣の先で調べても、反応は全く無い。妙につるつるしている布だ。ひっくり返すと、大きな黒い線がいくつも引かれている。


「……妙だな」

「そりゃ妙だが」

「違う。見ろ」


 クリスが差し出したのは水袋だった。動物の皮でできていて、よく見かける。どこにでもある品だ。おそらく盗品か強奪品、拾い物だろうが、水はたっぷりと中に入っている。


「使った形跡がない」

「なに?」

「1つもだ。妙だ」


 生き物である限り、水分は必須だ。ゴブリンとてそれは変わらない。全く使っていないなどありえない。

 思い返せば、このゴブリン達は掠れた声しか出していなかった。まるで水分を全く取っていなかったかのように。


「どうする」

「そりゃ、フリッグス軍に報告するか、追いかけるっきゃないが……」

「追いかけましょうか。原因がわからないと、報告も何も無いでしょ」

「……だな。警戒して行こう」


 割れた岩間を通り過ぎ、狭い道の眩い光を受けて、思わず手を翳して光を防ぐ。

 うねる川辺を眼下に、とても人が登れそうもない。巨大な竜の背びれのような、突き出た台地が並び立ち広がっている。

 遠く、トンビの気高い声が聞こえる。何頭もの草食竜が、台地に侍るように草を喰んでいた。


 ゴブリンの真新しい足跡は、段差のある台地に向かって伸びているようだ。ここから先は見通しが良い。俺とクリスは弓を取り出した。


 姫さんの乗っているグリンの足が止まった。台地の段差に埋まっている。俺の7〜8倍はある巨人を見上げている。

 鉄機兵だ。かつて、古のリインカー達が魔術と神術の粋を使い。こぞって製作し、大陸間巨兵戦争を引き起こした、大昔の遺物。


「デカいな。この間の雨で出土したのか」

「ギルドに報告しなければ、なりませんよね……」

「型式わかるか。クリス」

「緑の鉄機兵。ゼロロクだ」


 かつて存在した様々な鉄機兵と、歩兵との戦力差は、1000体1とも、1万対1とも、100万対1以上とも言われている。

 いにしえにて、力とは神である。なんて格言もある。彼ら鉄機兵は、その体現者と言うわけだ。

 軽く鉄機兵の周囲を調べて観察してみる。残念ながら特に使えそうな物は残っていない。

 鉄機兵は手に斧のような物を握り込んでいる。俺の身長の3倍はある。当然デカ過ぎて使えないな。


(………い………)

「あん? なんだい姫さん?」

「へ? 何も言ってませんけど」

「うむ」

「そうか、鳥の声かな……?」


 空や木々を見つめると、一斉に鳥たちが飛んでいった。ゴブリンの足跡は、台地から丘の方へと続いている。時間は夕暮れより少し前だ。その場を後にして、俺達はゴブリンの追跡を再開した。






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