第15話
初めての百貨店。確か、ここが完成したのは僕が小学生の頃であった。そう記憶している。開店当初。車やら、なんやらがここ周辺で列をなしていた。レジの待ち時間は3時間以上とかそのようなニュースをみて、その時は絶対にこのような場所へ来てはいけない。そう思った。
同じ場所に数時間列に待機する。しかもその理由が物を買うため。僕にはその行為が理解出来ない。だから、逸見同様、ここは馬鹿がいく場所。そう思っていた。
そして今。
やはり、百貨店というのは馬鹿がいく場所だ。結局そう思った。
中は、完成してから5年以上経っている。だけれども、まるで新築かのように床は綺麗に磨かれている。入り口にはここに来てイベントを行った有名人のサインが貼られている。その有名人たちは僕でも知っているような人ばかりである。
そうして天井は高い。というよりも4階まで吹き抜けになっている。
そして照明はその4階、天高くにある。そのはずなのに明るさはフロア全体に広がっている。むしろ明るすぎるぐらいだ。
ブランドの服屋などがフロアのあちこちにある。その匂いがそれぞれ独立して僕の鼻に突き刺さる。ただし、通路幅が広いため、その匂いが混じり合って不快な匂いになる。そのようなことはなかった。
問題は人の声である。
ここも北口駅同様。沢山の人の声や足音が僕の耳につんざく。普段、人の声を聞き慣れていない僕からしてみればその人の声だけで頭が痛くなる。というよりも他の人はどうして頭が痛くならないのか。疑問に思う。
それはふくが自分の毒で死なないのと一緒の現象なのかもしれない。
ともあれ、他の人には無害な物でもそれは僕にとっては立派な毒であった。
「それでクーロン、どこに行きたいの?」
と僕は聞く。しかし彼女は首を傾げた。まぁ。そうなるか。この人が服のブランドとか知っているわけない。
「ダーリンの好きな服屋でいいよ」
かと言って、僕だってそこら辺の服に関しては珍紛漢紛である。そんなことを言われても困る。
僕の好きな服屋とか、ワコールとかだしな。やはり下着姿の女性が一番良き。エロい女性が一番いい。何だったら裸でもオーケイ。
それか童貞を殺す服とか。あれは一体どこの服屋で販売しているのだろうか。
まぁ、そんなことは言えるはずがなく。
「そうだな」
と僕は歩いた。
そして周囲を見渡す。やはり聞いたことのない店だらけ。だけど、そのうち。一つ。
とある店の前で足を止めた。そこはビーモーズという場所。名前だけなら聞いたことある。だからそこに行ってみようか。そう思ったのである。
「ここは」
と言う。
すると
「ダーリンはこう言った服が好きなの?」
とクーロンはマネキンの方に指を差してそう聞いてきた。
そのマネキンは緑のカーディガンと、マニッシュなスラックス。男性でも女性でもどちらでも着れそうなスラックスがあった。
「まぁ……」
と言う。ぶっちゃければ服の良し悪しなど分からない。全て同じように見える。
クーロンはその服を手に持つ。そしてそのまま試着室の方へ向かった。
カーテンの奧。そこからシュルシュルと紐が解ける音がする。カーテンの奥にはパンツとブラジャー一枚。ほぼ、裸に近いクーロンがいる。
何度も言う。決して僕はクーロンに対して好意がある訳ではない。しかし、しかしだ。この1メートル先にほぼ生まれた状態に近い少女がいると考えると、興奮する。ほとんどの人はこのカーテンを捲りたい。そのようなことを考えるだろう。これは男として同然の反応である。
僕はゆっくりと、カーテンを手にかける。
「変態」
と後ろから、そんな声が聞こえる。ハッとした。そういえば、逸見も一緒にいたんだな。
「変態とは何だ」
「いや、変態でしょ。彼女の裸をみようとするなんて」
「しょうがないだろ。見たいんだから」
「はぁ」
と逸見はため息を吐いた。そういえば、この会話。クーロンに聞こえているのだろうか。と思ったが、何も反応がない。だから聞こえていないだろう。と言うよりも、彼女の場合。別にこの会話が聞こえたところで何も反応しないはずだ。
「男ってそんなに女の裸を見たいの?」
「そりゃそうだ。特に男子高校生にとってその服の先が桃源郷だからな」
「そうなんだ。私のも見たかったりするの?」
「あぁ、見れる物なら」
と言ったら、逸見は顔を真っ赤にする。そしてそうか。そうか。と何度も小さな声で言った。そして意を決したように僕の方を見る。
「それじゃあさ。揉んでもいいよ。私のを」
「はぁ?」
思考停止。
こいつはマジでそう言っているのだろうか。いや、流石に、そんなこと。
僕は指を細かく動かす。
いや、揉んでもいいと言うのであれば。遠慮なく揉むぞ。
「いいのかよ」
「えぇ」
と、頬を赤らめながらそう言っている。
「そっか、そっか」
それじゃ、遠慮なく。
とその瞬間、サーっとカーテンが開いた。僕の心臓が一瞬、止まる。振り返る。
そこには、カーディガンを着たクーロンがいた。
「どう、ダーリン?」
そう聞いてくる。僕は、逸見は、顔を真っ赤に染めている。
「そ、そうだな」
一回深呼吸。そしてクーロンの方を見る。
うん。さっきまで高校の制服を着ていた。だからあぁ、高校生っぽさがあった。幼なさがあった。しかし、制服を脱いだ今のクーロンにはそう言ったものは完全に消えてしまっている。
大人っぽさがある。理智的な雰囲気を持っており、咲夜などよりもずっと年上に見える。お姉さんと言う雰囲気がある。
「すごいな。服一枚でここまで変わるなんて」
と。素直にそう思った。
「そう、この服好き?」
「あぁ、好きさ」
「そうか。それならこれを買う」
そう言って、彼女はもう一度試着室のカーテンを閉める。そしてシュルシュルとズボンを下ろす音などが聞こえる。
「ねぇ、この服。1万位上するよね?」
「まぁ、それぐらいはするだろうな」
「クーロンさん。そんなお金持っているの?」
僕からクーロンにお金など渡していない。しかし、クーロン自身は僕と出会った頃から財布を持っていた。その事から決して、お金を持っていないと言うわけではなさそうだ。
「まぁある程度は持っているんじゃないのかな」
「そうなんだ。だけれども服に1万以上」
「どうした」
「いや、何というかさ。1万あったら高級なお肉を食べれるなと思って」
と。そのようなことを言うから僕は苦笑をした。
「何よ、その表情」
「いや、やっぱり逸見は餓鬼だなっと」
「はぁ?」
と言っても、実のところ。僕も同じ意見である。1万あったら一体ライトノベル何冊買えるだろうか。ゲームソフト何本買えるのだろうか。そのようなことばかりを考えてしまう。
「何よ。男って餓鬼っぽい人が嫌いなの?」
「いや、一部のロリコンには刺さるんじゃないかな」
事実、逸見みたいな低身長少女。男を知らない純粋無垢な少女。マニア受けしそうな感じはする。
「ふん。何よ馬鹿にして」
「別に馬鹿にしてないよ」
「いいえ。あなたは馬鹿にしているわ」
あっ、そうだ。と彼女は言う。
「さっきのあれ。嘘だから」
「さっきのあれって何だ」
「だから、胸を揉んでもいいと言うの。誰があなたみたいな変態さんに胸を揉ませてやりますか」
「ふん、誰がお前みたいな痴女の胸を揉むか」
「痴女とは何よ、痴女とは」
「いや、お前は痴女だ」
と。そのような会話をしているとガラっとカーテン開いた。
「一体何の会話をしているの?」
と。クーロンは言う。
その瞬間、また僕と彼女は赤面した。店内で痴女だとか何とか。何と恥ずかしい会話をしていたのだろうか。
そしてクーロンは本当にその服を購入した。
高校生が持つには随分立派すぎる手提げ鞄を持っている。そしてそのまま百貨店を歩いた。
「それで次、行きたい場所あるの?」
「次行きたい場所? ゲームセンターとか?」
「ゲームセンター?」
「ないだろ。こんな場所には」
「うるさい。分かっているし!」
と。彼女は反論する。嘘だ。絶対に分かっていなかった。
「それじゃ、えっと。その……」
そして彼女はしばらく黙り込んだ。と思ったらすぐに。
「そうだ。喫茶店とか?」
そう言って彼女は先頭を切って歩き始める。一生懸命考えて、出た答えなんだろう。そしてその喫茶店に辿り着いた。
「嘘でしょ」
メニュー表を見て彼女は唖然とする。
「これが600円」
「これがと言うな」
と言いつつ、僕は彼女の意見に同意だ。
「よ、よし。まぁしょうがない。取り敢えず行きましょう」
「無理すんな」
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