第14話
放課後になる。
わざわざ、僕の家とは反対方向の電車に乗り揺られる。電車の中。クーロンは僕の隣に座っていた。しかし、逸見は僕たちと向かい側に座って参考書を開いている。
どうせ一緒に行くのであれば、僕たち3人は並んで席に座ればいい。そう思う。しかし、考える。仮に僕と彼女が一緒に座ったとして、どのような会話をすればいいのだろうか。会話のネタというものが思い浮かばなかった。
まだ逸見のことを何も知らないのだ。何も知らなければ知らないで、彼女からそれを聞けばいいのだが。しかし、どうも、そのような気力が湧いてこない。
そうして電車で数分ほど揺られる。そして北口駅に到着した。そこで電車に乗っていた人々の大半が吐き出された。僕たちもその波に乗る。ホームには向かい側のホームまで届きそうなぐらいの長蛇の列がある。恐らく、僕たちを吐き出した後、今度はこの人たちが乗ってくるだろう。そう思った。
その時点でこの街は異質であると感じる。こんなに人が密集しているなんて。
そしてエスカレーターを登る。駅のコンコースに出る。そこも人、人。人が絶えず動いている。右から左から、前から後ろから。弾幕ゲームの球のようにあちこち。止まることなく。
空気が澱んでいる。それぞれの声が、足音が反響している。だから僕たちの物音がそいつらによって、消されていく。
そして改札口出る。
その先には、渡り廊下のようなものがあった。
新宿や天王寺、梅田のような高いビルが密集している。そのようなことはない。地方都市の雑居ビルが密集したような街である。しかしやはり人は多い。その人の多さにはやはり驚かされられる。
「ついた。ついに、ここについたよ」
とここで、終始黙っていた彼女がようやく喋り出す。
「今までここ来たことなかったんだ」
「そりゃ、そうでしょ。こんな場所。暇人か馬鹿がいく場所でしょ」
と。確かにそうだ。だけれども、僕たちはその馬鹿の街に来てしまった。その時点で他の馬鹿と同類。
さらに、逸見の口元が綻んでいる。本当はこの場所に来れて喜んでいるのだろう。
「それで、まずこっちの方に行こう」
と逸見は歩き出す。
それに対して
「なんでそっちなの?」
とクーロンが言う。
確かに、逸見が向かおうとした場所は、他の人の流れに逆らっている。
他の人の流れは、大型ショッピングセンターへ向かっているのに。
「あっちの方が図書館とか色々あるから」
と。
確かに、百貨店の反対側には図書館や本屋など。色々な施設がある。後はアカチャンホンポ。だけれども、僕たち高校生が買い物するには少し物足りない商業施設である。
だからみんな百貨店の方へ向かう。
「いや、まぁそっちの方に行きたい場所があるからさ」
と言って、逸見は足を進める。
「私は百貨店の存在意義わからないんだよね。あそこって無駄に高級品が置いているというか。なんというかさ。ただの布に数万とか払えないと言うかさ」
「服屋さんがあるんだ」
「そう」
クーロンは百貨店の方へ向かう人々の服装を見た。
「確かに、オシャレかもしれない」
と。彼女はそういった。
百貨店に向かう人は大学生などの20代から40代ぐらいの主婦、60代のマダムなど様々である。しかし共通してその人たちはみんなオシャレである。随分と綺麗な身なりをしている。
僕たちと同じ制服を着た高校生だって、服装は僕たちとそんな大差などでない。そのはずなのに、顔は白く、どこから良い匂いがして、あぁ、見えない化粧をしているんだな。そのようなことを感じる。
この人たちを見ると、僕たちなんて、田舎の山から降りてきた熊のような獣臭さがある。
「私もみてみたい」
と意外にクーロンはその人が沢山いる方へ行きたい。そのようなことを言った。だけれども逸見は難しい表情を浮かべる。
「嫌だよ。どうせ服なんて休みの日にしか着ないのだからさ。そこにお金をかけても無駄なわけだしさ。どれも一緒だよ」
「一緒なんかじゃない。それに服装一つで誰か振り向いてくれたらそれはいいことじゃない?」
と僕の方をチラリと見た。
ぶっちゃけ言えば、僕みたいな奴は女性であればどの人も可愛く見える。裸でも無問題。むしろ裸は裸であり。
だけれども、やはり乞食のような服を着ている人よりかは、綺麗な服を着てくれていた方が嬉しい。そう感じるかもしれない。
「ねっ、向こうに行こうよ。ダーリン」
そして僕はクーロンにギュッと手を握られる。
その手は温かった。
「なっ、なっ?」
「ここら辺の人。みんな手を繋いでいる。だから私も」
と言われる。確かに手を繋いで歩いている人は随分と多いような気がする。
「とにかくあっちへいくよ」
そうして、クーロンは強引にそちらの方へ手を引いた。
「あっ、ちょっと」
そんなことで僕たちはその百貨店の方へ行くことになった。
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