第2話

 第二の事件である。

 告白が成功しますようにと。僕は神社に行くことにした。近所に空瀬神社という場所があるらしい。

 僕は神様など信じていない。だって神様にいくら祈っても僕は幸福になることなどなかったのだから。


 中学に入学した時。僕は神社に行こうと思った。親から「中学生活は一度しか来ないのだから楽しんで来なさい」そのようなエールを送られた。確かに。僕の親と思えないほどいい事を言いやがる。その時、流石に自分と親の血縁関係が心配になった。

 その後、僕の親は5キロ離れた隣町のスーパーへお使い行くように言った。なぜ、隣町? と言ったら、そのスーパーは本日卵1パック100円だからと言った。齢12歳の子供には5キロ先のスーパーとは、ほんの少しの旅である。自分の一欠片ぐらいは見つかりそうだ。それなのに交通費の支給はなかった。タダ働きな上に交通費支給なし。これは労働基準署に言ったら対処してもらえるものであろうか。ともあれ、やはり蛙の子は蛙。これは僕の親である。良かった。安心した。多分劇場版とかになると、綺麗になるパターンだ。


 しかし僕は中学での楽しみ方を知らぬ。でも彼女の1人ぐらいは欲しい。そう思って神社にお祈りに行った。500円。小学生にとってはあまりにも大きすぎて、重すぎる硬貨を賽銭箱に課金して、「どうかいい人と巡り会えますように」と。祈りを捧げた。その結果、誰も現れなかった。その時、「あっ、やっぱり神なんていねーわ」と悟ったのである。


 ともあれ、何あれ、それ以降は神など信じていないもので。しかしここに来て大チャンス。もしかしたら初めての彼女が出来るかもしれない。気分は秋の地区大会に優勝してほぼ確実に春の選抜高校野球出場を手にしたような気分。後は不祥事さえ起こさなければ出場できる。しかし春までが遠すぎるからそれまでに、甲子園に隕石が落ちるのではないかと要らぬ心配をしてしまうあれ。または高校受験でほぼほぼ100%受かったとは思うけれども、解答用紙に名前をちゃんと書いたか不安になるあの現象。


 もうその状況に来たら、最早自分の実力ではどうにもならない。神頼みしかない。だから久しぶりに、神社で神頼みをしてみようと思う。

 あの時は、500円を賽銭箱に捨てた。神様は500円如きいらないとのことであった。それなので今回は札束をお納めしてやる。


 この空瀬神社。大きな本殿と小さな6つの摂社からなっている。まず本殿に1000円。入れる。二礼二拍一礼。丁寧に。祈る。告白が成功しますようにと。その次に横にある小さな摂社6つ。稲荷神社だとか松尾神社だとか。その摂社は祠に神棚があるぐらいの小さな作り。賽銭箱もおもちゃみたいに小さい。だけれども6つ全てに小さな賽銭箱が付いている。


 その6つ全てにお金を入れて(流石に6つ全てに札束を入れるのは勘弁)祈る。とにかく祈る。よし、これで絶対に成功する。気分が軽くなる。


 そしてその摂社横。ほんの少しだけ、雑木林が広がっていた。何故かその場所が気になる。その雑木林の方に歩く。草木がチクチクと僕の太ももを攻撃する。この場所。そういえば小学生の頃よく行った。奥に溜息があって、偶に白鷺がそこの水を飲んでいたりする。その溜池にはボールが転がっていて、小学生の僕からしてみればそれは宝物であった。よく家に持ち帰って、でも母親に汚いからと言って捨てられたものである。


 その溜池付近。何年振りに来たのだろうか。あの時よりも少し大人になった今、そこを見ると溜池というよりは、泥池である。水の色が茶色。錆が浮いているようである。こんなところに入ってしまったら自分も錆びてしまいそう。


 そこのすぐ近くに自分の膝あたりまであるだろう大きな石が埋められていた。よく見ると、その石。なんだが祠のような意味があり気の形をしているように思える。もしかしたらこれも神社の一部なのではないか。その時。僕はそう考えた。


 神社の本殿から遠く離れて、他の摂社にも入れず。まるで僕みたいな神社だ。クラスで浮いている。そんな共通点が勝手に出てくる。

 少し可哀想になった。だからここでも賽銭してやろうと思った。だけれどもこんなところでお金を置いても、何のこっちゃ。お金よりもその祠、もっと別のものを欲しているように見えた。ポケットに手を入れる。そこにはお菓子があった。そのお菓子をその石の前に置く。そこでも二礼二拍一礼。それが終わった。


 今度は神社授与所へ向かう。折角神社に来たのだから、御神籤を引きたくなった。

 そしてそこに着く。そこには巫女さんがいた。


「あっ、美鶴さんじゃないか」


 その巫女さん。僕と同じ大社北高校2年生。確か美鶴さんは隣のく2組だったはず。


「えっ……」


 しかしその美鶴。僕のこと誰か分からず目を丸くしていた。


「どうして私の名前を?」


 そして彼女はそういった。


「僕だよ。僕?」


「えっと、新たの詐欺……?」


 誰がオレオレ詐欺師だ。とうとう電話ではなく直接、人に会って孫になりきる時代になったのか。

 美鶴がほぼ45度、斜めに首を傾げている時点で本気で僕のことが分からないらしい。嘘だろ。僕なんて、クラスの人の名前、出身校までちゃんと覚えているというのに。男子は覚えていないけれども。


「いや、隣のクラスの」


「あぁ! あぁ…… あぁ……?」


 やはり僕のこと、分からないらしい。


「ごめんなさい。私、その……歴史の年号とか覚えるのが苦手なものなので」


 1600年.関ヶ原の戦い。これよりも僕の名前の方が覚えにくいというのか。


「元素記号を覚えるのは得意なんですけれどもね」


 まさかの水兵リーベ僕の船名前があるシップスクラークかに負けるとは。まぁね。あれは覚えやすいからね。しょうがないね。

 ただ、相手が本気で申し訳なさそうに頭を下げるものだから困った。やめてくれ。悪いのは僕の方なんだ。僕の存在が水兵リーベ以下なのが悪いんだ。


「いや、別に謝らなくてもいいよ。ただもし良かったら同級生のよしみでお守りとか50%オフになったりしないかなって」


「えっ?」


 本気の困惑の声。

 やっぱりダメですよね。お守りを値切る人なんて聞いたことないですよね。いや、土用の鰻とか鏡餅とかそういった縁起物が値引きされるのを見たことあるので、何となくお守りも値引きいけるかと思った。


「冗談だよ、冗談」


「ですよね。流石にお守りで値切る頭の悪い人。いるはずないですよね」


 何だろう。所々、この人。口が悪い。冗談とかではなくて本気で言っているからタチが悪い。もしかしてこの口の悪さ。この人は京都人なのであろうか。それも、偶々運よく京都府の仲間に入ることが出来ただけなのに、如何にも自分は京阪神地区という近畿を支える大都会に住んでいますという顔をしている宮津市民みたいな感じがする。一応言うけれども、アンタらほぼ福井県ですから。残念!! 因みに、僕の高校生の同級生は本気で天橋立と東尋坊が一緒の場所にあると思っていた人がいた。それぐらいの扱いだ。


「それにしても、あなた。なぜあちらの方に行ったのですか?」


「あちらの方……?」


 あぁ、あちらの方。雑木林の方か。


「もしかして、侵入禁止とかだった?」


「いえ。そんなことはないです。ただあちらの方に行くのは珍しいので」


「ハイハイ。僕は変人ですよ」


 そう言えば。

 美鶴は見た感じ、ここでアルバイトしているような感じではない。というか僕の学校、アルバイト禁止だし。そうすると、ここが実家でその手伝いをしている。そのような感じであろう。それなら。


「そう言えば、あそこに石の祠みたいなものあったけれども。あれも神社なのかい?」


 と言うと、また美鶴は目を丸くした。


「あなた。まさかあの場所に気づいたのですか」


「気づいたというか。まぁ」


「凄いですね。あそこはあなたの言うとおり九龍(クーロン)神社という名前です。九の龍という感じで分かる通り龍を祀っています」


「なんだ。やっぱり神社なのか。それならあんな仲間外れみたいなことをしないで、ちゃんとこっち側で祀ってやれよ」


「そうですよね。私もそう思います。神社の社史によると九龍神社。本当はもっともっと大きかったらしいです」


「そうなのか」


「えぇ。聞けば今の生田神社とかそこら辺よりも参拝数は多かっただとか何とか」


「へぇ。明治時代まではあそこもそんな立派な神社があったんだ」


「明治時代? 誰がそんな近代の話をしましたか?」


「えっ、だって。昔はって言っていたじゃん」


「あぁ。昔と言っても奈良時代とかそこら辺ですよ」


「奈良時代? あの、大阪京都たちのせいで誰も現地でお金を落としてくれない可哀想な県で、そのせいなのかどうか分からないけれども、2023年唯一関西連合に加盟していなくて、まるで学校の僕みたいなボッチの扱いを受けていた奈良県が首都だった頃の時代?」


「奈良県にどんな恨みがあるのですか?」


 違う。恨みなどない。ただ、奈良県にはボッチ仲間としてのシンパシーを感じるのだ。例えば兵庫、大阪は何だがわちゃわちゃしているような気がする。和歌山は三重と仲良さそう。滋賀は京都に全力で媚を売っている。そう考えると奈良……アイツ友達いなくね? 古都という特殊なキャラ付けをしたのはいいのだけれども。京都君とキャラが被っている。あれだろ。中学時代までピアノが上手いキャラで行っていたのに、高校生になったら同じキャラいや、それの上位互換が発生してしまった為に、自分の唯一の特性が消されてしまう。そしてますます、自分の立場がなくなってしまう。あの現象と似ている。まぁこれも僕なんですけれども。


「まぁ、その奈良時代まではあの神社、ここ周辺では一番大きな神社だったらしいです」


「それがどうしてあそこまで落ちぶれたんだ」


 リア充が、ひょんな失敗から我々ボッチの世界にようこそしてくれる瞬間はとても楽しいものだけれども。やはり自分の傷を癒してくれるのは、他人の失敗だ。


「信仰が無くなったからですね」


「信仰が無くなる?」


「そうです。九龍神社は元々、蛇神でした。農作物の神様だったらしいです。だけれどもその権威は失われていきました」


「なんで」


「新しい神様がインドや中国から来たのです。その名は荼枳尼天」


「荼枳尼天? 聞いたことないぞ。そんな神名前」


「えぇ。荼枳尼天は死者の神です。荼枳尼天は元々ジャッカルでそいつは死人の肉を好むそうです。そのことからその神は死者の神として扱われるようになりました」


「いや、でもジャッカルなんて日本にはいないぞ」


「はい。いません。しかしジャッカルに似た動物ならいますよ。キツネという」


「キツネ?」


「そうです。当時の人はジャッカル=キツネと思ったのですね。そしてそのキツネの尻尾。金色に輝くその姿はまるで豊作な農作物のように見えて。そしていつの日か日本では荼枳尼天は農作の神となりました」


「キツネ……神。つまり稲荷神か」


「おぉ。凄い。ご名答です。まぁ正しくは神様ではなく神様の眷属なんですけれども。そうです。狐は農作物を豊作にしてくれる素晴らしい神と拝められていきました。それに対して蛇神。彼らは水を好むところから雨を操る神様として考えられていましたが、しかし。雨なんて、降りすぎたら人間にとって厄介なものです。伝記は残っていないですが、多分一度大きな洪水が各地で起きたのでしょう。そうなるとそれは蛇神の仕業だと扱われます。すると蛇神は悪の存在に。やがて人々は蛇神なんかよりも稲荷神の方が農作物の神として相応しい。そう思うわけです。なんということでしょう。一度のスキャンダルで失墜して新しい人が人気出る。まるで芸能界ですね」


「それで今はあんな扱いになってしまったのか」


「はい。平安時代には蛇というのは厄介な生き物としての代表となります。蛇除けの呪文を安倍晴明などの陰陽師が使っていたぐらいです。蛇という生き物は厄介。半殺しだけでは死にはしません。そして執着心が凄い。恨みを持った相手に対してはどこまでも追いかけてきます。だからその時代ではむしろ蛇神というのは邪神に近いような存在になってしまいます」


「なるほどな。それであちこちで蛇神を祀っていた神社がなくなっていったんだ」


「えぇ。ただし、岡山県の笠岡市などでは道通様を祀っている場所などありますし、岩国などでは白蛇を祀っているところもあります。まぁそれにしても蛇の神社というのはかなり少ないものになっています」


「その中でどうしてあの九龍神社は残ったんだ?」


「さぁ?」


「さぁって分からないのか?」


「わかりません。まぁ、あくまでも予想なんですけれどもここら辺で物凄い祟りがあって、その祟りを抑える為にあのような神社を作ったのじゃないですか? 悪霊や邪神の神が後に神社に祀られる要因というのは基本的に菅原道真のような祟りですからね」


 などと聞くと、その九龍神社の神様は随分と厄介のように聞こえる。


「まぁともあれ。あそこに参拝してくれてありがとうございます。きっとあそこの神様があなたに恩返ししてくれますよ」


「恩返し?」


「はい。あまりにもスピリチュアルで宗教的すぎて信じてもらえないかもしれませんが。あなたには沢山の鬼がついています」


「鬼だぁ? あの角の生えた鬼か?」


「いえいえ。そんな鬼ではないです。なんというか。説明すると難しいのですが。鬼という語源は元々隠。隠れるという意味でした。簡単に言うと、見えないだけれども何故か起こる悪い現象。そしてその悪い現象の側には必ず憑き物がいる。その憑き物が、鬼です。つまり一般の人には見えない悪い因果を引き起こす原因の物体です」


「いや、何を」


「因みにあなたには1億5000万の鬼がついています」


「日本人口よりも多い!!」


 ボッチだと思ったけれども、まさか鬼にはこんなにモテていたのか! 嬉しくねーな!


「その鬼たちもあそこの神様は簡単に追い払ってくれます」


「というと、その蛇神様ってかなり強いんだな」


「えぇ。その気になれば1人で高校野球優勝できます」


 いや、守備位置が投手しかいないし。そもそも大会に出れるのか。それ。


「まぁこんな話。あなたにしても信じてはくれないとは思います」


「いや、信じるよ」


 また目を丸くした。だけれども今度は少し表情が柔らかった。


「いや、なんと言うかさ。そんなものいないに決まっているだろと心の奥底では思っているよ。思っているけれどもさ。だからと言って完全に否定するのは何かちょっと面白くないじゃん。親からサンタクロースいないと言われた日はどれほど悲しかったか。この世にスーパー戦隊みたいなヒーローがいないと知った時はどんなに寂しかったか。僕はそんな非現実的なものがいて欲しいと思っているんだ。だから目の前の女の子が馬鹿真面目に語っている非現実的な話を信じる方がきっと楽しいと思うんだ。だから信じるよ。そりゃ、ここで10万の壺を買えば幸せになりますとか言われたら別だけれどさ」


「そうですか」


「うん。後、僕は女の子の言葉は全部信じたいと思っているんだ」


「はぁ」


「女の子は嘘をつかない」


「そんなあなたにこんな言葉を。鬼と女とは人に見えぬぞよきと」


「なんだそれ」


「これは提中納言物語の虫めづる姫君に出てくる言葉です。さっき鬼の語源は隠と言いましたね。つまり鬼はいつも隠れているのです。それと同じように本当の女もどこかに隠れています。だからあなた、注意してくださいね」


「忠告ありがとう。だけれども僕は大丈夫さ」


「どうですかね。砂糖だって大量に取れば肥満や糖尿病。つまり甘さが毒になるのです。女性が発する甘さは毒であり罠なのですよ」


「けれども中学までは女性の甘さなど感じたことなかったけれど」


「それじゃ、周りの女性陣が優しかったのですね。感謝しましょう」


 だ、そうだ。読者諸君。


「それじゃ、美鶴も僕を甘い罠で毒を仕掛けるのか」


「なんでですか。食虫植物でも罠を仕掛ける相手選んでいるのに」


「つまり僕を罠をかけても無意味だと!?」


「無意味ではないですよ。私から時間を奪っている時点で、悪い方向で意味をなしているので。むしろ無意味よりも最悪です」


 僕はどんな扱いなんだ……


「まぁ、ともかく、あなたはあまり女の子のこと信じない方がいいです」


「はいはい。忠告ありがとうね」


 と僕は100円玉を美鶴に渡した。


「とにかく一回。御神籤引くよ」


「はい。どうぞ」


 そうして、ガラガラと木の箱を揺らす。それを逆さまにひっくり返す。すると番号が出てきた。


「13番だ」


「13番ですね。はい」


 と、美鶴は後ろにある13という引き出しから紙を取り出す。それを僕に渡す。その紙をペラリと引く。


「大吉だ!」


「良かったですね」


 今、思い返すと多分これが人生初めての大吉だったかもしれない。その中で気になる項目が二つ。まず。恋愛。叶う。短い文字でそう書かれている。その次に待ち人。これに関してはもう既にきている。そう断言。


 もう来ている……当然、頭の中ではあの人のことだと。すぐに分かった。成程、これは。うん、もうそういう事だ。僕と真礼は付き合うんだ。そして結婚するんだ。

 笑顔が止まらない。


「な、なんですか。そんな気持ち悪い顔をして」


「いや。あのさ、ここの神社って結婚式やっているの?」


「まぁ、年に数回ぐらいはここで結婚式あげる人いますね」


「そうか。それじゃこの神社で結婚式をしてやるか」


「はい?」


「そしてその後、結婚式披露宴でピアノの弾き語りしようかな」


「あっ、絶対にそれはやめてください」


 これは素晴らしい結婚式になるぞ。

 何だが気分が良くなった。

 だから追加で500円、美鶴に渡す。


「今度は絵馬を頂戴」


「はいはい」


 そのまま絵馬とペンを渡す。


「若山真礼と素晴らしい家庭気づけますように」


「うわぁ……」


 何だが、ドン引きしているように思える。

 そしてペンのキャップをしまう。

 しかし、美鶴はトントンと、絵馬の左端を指差した。


「ここもちゃんと書いてください」


「ここ?」


「はい。名前と住所。特にあなたの場合は住所を一言一句間違えずきちんと書いて欲しいのです」


「住所……?」


 そういえば、神社に行くと結構絵馬に住所を書いている人がいるような。


「これって絶対に書かないといけないの?」


「うーん。元々は神様に自分の居場所を教えるために書くものでした。しかしネット社会に普及した今。個人情報があれば何でも出来るので、あまりここを書く人はいなくなりました」


「そうだよな」


「はい。だから神社によっては個人情報保護シールを用意していたりするところもあります。それか、絵馬を持ち帰って神棚に飾ることを推奨している神社だってあります。ただし、神社によっては絵馬を持ち帰ることを禁止しているところもあります。そこら辺の考えは神社によって色々と違うので、その神社の巫女さんとかに確認しましょう。ともあれ、この空瀬神社は別に住所まで書かなくていいのです。だけれどもあなたは別です」


「何でさ」


「うるさいですね。こっちにも色々と事情というものがあるのです。別にあなたの個人情報一個や二個漏れてもいいじゃないですか。誰が困るのですか?」


「僕だよ! 僕が困るんだよ!」


「いやいや。あなたの個人情報、ディスクリーンアップしたら真っ先に消されるぐらい価値ないじゃないですか」


「僕の個人情報。そんな価値ない!?」


 と言いながら、美鶴は絶対に住所を書いてください。そう執拗に迫ってくる。

 どうして僕の個人情報、ここまで欲しがるのだろう。少し訝しんだ。しかし、結局。住所を書いた。


「はい。ありがとうございます。これであなたの願いは確実に叶います。後は胸を揉むなり好きにしてください」


 と。

 その時は一体何を言っているのか。分からなかった。

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