負け組主人公の僕は一生負け組

ぼっち道之助

第1話 ボッチ星住人は結局、リア充になれないのです(1)

さてさて。世紀の誤審が発生いたしました。

 何と、この僕が女の子からフラれた。

 VAR! VAR! リクエスト! リクエスト!


「あの、真礼さん。好きです」


「だから、無理だって」


 ううん。判定覆らず。

 さて、この時。驚天動地。いや、世界は何も驚いてくれやしない。ただ僕を中心とした世界が真っ暗となり、グルグル激しく公転する。そして僕はそのまま遠心力によって地球の外から飛び出してしまいそうな、今朝食べた卵焼きが、酸っぱい胃酸と一緒に戻ってきそうな、そんな気分に襲われた。今、太田胃酸を飲んでも彼らは何もしてやくれない。


 フラれた時のショックは、小説新人賞の一次選考落ちと似ている。自分は神に近い存在だと勘違いして、天に浮かれているところに、大きな拳骨が頭の上に振ってきて、秒速30万キロで地の底。マントルの中心部にまで叩きつけられるあの感覚。


 ただし、後者の方がまだマシである。新人賞一次予選落ちたら、もう一度送ればいい。何だったら、ドグラマグラを超える奇文を送りつけて、選考員を精神崩壊させればいい。僕は実際にそれをやった。未だに書評は返って来ぬ。


 それに対して、フラれた時。もう一度再戦を挑むのはかなり至難の技である。こんな時代なのだから、下手をすればストーカーとして捕まってしまう。

 とあるバスケの先生なら「諦めたら試合終了です」とか何とかふざけた事を抜かしてやがる。この場合、「諦めないと試合終了です」である。


 流石の僕も高校二年生で、銀の鉄格子の奧。そこで冷めたチキンを食べる勇気などない。まだチキンナゲットやらダブルチーズバーガーが美味しく感じる馬鹿舌なのだから……いやあれは何歳になっても美味しいのだけれども……そう言った不健康的なものを食べてアドレナリンを暴走させたい。


 女の子1人のせいで、刑務所の中で「クソ、静まれ俺のアドレナリン」をするのは勘弁である。


 つまり、僕はこの女にフラれた時点で全てを諦めている。もう再戦をするつもりなどない。大人しく白旗を両腕全力で上げてフリフリしようと思っている。


 しかし、やはり納得いかない。どうしてフラれたのか。はて。


 ここで、ここ数日を振り返ってみましょうぁ。


 数日。目の前の彼女と毎日休み時間喋った。などというと、僕にストーカー疑惑あるのではと。変な疑いの目を向けられるから言う。向こうから、やってきた。それも満面の笑みで。


 読者諸君。嫉妬は良くない。確かに僕は、中原中也に言わしてみれば「青鯖が空に浮かんだような顔」である。幸が薄い。印象に残らぬ。どれぐらい残らないかというと、僕がうっかり写真に写り込んだとする。そうなっても、消しゴムマジック使わずに僕の姿は消えているだろう。存在時代が、消しゴムマジック使用済み。それが僕。


 そんな中。彼女は僕に話しかけて来てくれた。薄皮の剥けたような顔で、僕とは違った意味で透明感のある笑みを浮かべながら。ちなみに僕は本当に存在が透明である。学校の終業のチャイムが速攻帰ることから、透明高速と自分で自分自身の渾名をつけているぐらいに。


 そして他愛の会話を良くしたものだ。諸君。いい加減、訝しむのをやめてくれ。闇バイトの勧誘とかではない。というか、僕を舐めていけない。鼠講勧誘者の方から、僕は足手纏いだからと言って戦力外されるほどだろう。


 事実、大阪駅を歩いていたら、明らかマルチの女性が話をかけてきた。そして僕の濁った目を見るなり「あっ、ナンデモナイデス」と言われたほどだ。(実話)この世には闇バイトの面接すらも採用条件不一致で落ちるやつもいるのを忘れてはならぬ。


 とまぁ、以上のことから僕には闇バイトの勧誘などそういったものは来ないと言うことが分かっただろう。つまり単純に僕に興味があって、彼女は話かけてきたのだ。


 その会話中。彼女は何度もオーラ2で磨いたピカピカの白い歯を見せてきた。いや、オーラ2かどうかは知らんけれども。僕のちょっとした小ボケでも笑う。あまりにも笑うので、あれ、ひょっとして、僕ってお笑いのセンスがあるのではないか。進路希望にNSCと書こうかな。そう思った。しかし、僕が芸人になって有名になったら、インスタ乗っ取られて、炎上する未来が見えたのでNSCに行くのをやめた。


 そして、彼女自身も、自分自身の事をよく喋ってくれた。

 自分の好きなもの、休みの時の過ごし方、将来の夢など。これは決して、僕の方から聞いたわけではない。向こうから喋ってくれたのである。また


「来週家族と鳥取観光行くんだ」


 と教えてくれた。鳥取観光だなんて。行く場所なんて鳥取砂丘ぐらいしか。他は……境港妖怪ロード、皆生温泉やらとっとり花回廊、大山牧場、白兎海岸、浦富海岸、倉吉の白壁、智頭宿、投入堂ぐらいしか思いつかないぞ。


 正直のところ。その観光旅行。僕もついて行きたかった。決して車で彼女の横に座らせろとか奇譚ない願いをするつもりはない。まして、家族旅行で彼女と2人きりでホテルに泊まる不料簡な考えなどもない。僕の性格というのはプラトニックで尚且つ竹を割ったような純粋な人間だということを彼女の家族にはぜひ知ってほしい。


 僕はしおらしく、ちゃんと車のトランクにでも乗ろうと思っている。ホテルの部屋は彼女と一緒かもしれないけれども。青天白日。決してやましいことはない。


 などとは思ったものの、流石に家族旅行は遠慮した。だから力強く


「気をつけていってらっしゃい」


 そう言ったものだ。実のところ、僕はまだ心の余裕があった。絶対に彼女は僕に気があるのだと。そしていつか僕の方へ振り向いてくれるだろうと。来年は家族旅行ではなく、僕と一緒に旅行へ行っているはずだ。いや、家族の中に僕が含まれているかもしれない。


 ともあれ、僕と彼女はよく喋った。恐らく彼女の人生においても、一番何でも話せる男性は僕である。そうであろう。そう自負している。いや、これは勘違いや自負などではない。事実なのである。地球平面説を唱える人がいる。しかし、地球は丸いというのを実際に見た人はいるわけで、何だったら僕たちの見る宇宙からの地球もちゃんと丸いわけで。これほど証拠まであるのだから、地球が丸いのは事実だ。それと同じように、誰が何と言おうと、彼女が休み時間、一緒に喋っているのは僕だけだし、つまり僕が一番仲のいいわけだし。その理論を異するものは、地球平面説を信じるようなものである。


 さて、これで困った事が発生する。僕は人生でこれほど人に好かれたことなどなかったもので……あっ、何度も言うが決して勘違いではない……そうなると僕も彼女……まぁ若山真礼というのだけれども……のことが好きになる。そして頭の中、彼女でいっぱいになる。


 ノートの左端から右端まで若山真礼、若山真礼。と彼女の名前で埋め尽くす。まるでノートには無数の卒塔婆が並んでいるみたいになった。

 これをそのまま若山真礼に渡したい気分ではあった。しかし、流石の僕もそれはしなかった。


 告白チャンスがきた。やがて。


 まず告白事件、もとい、告白チャンスが到来した理由を順に追って説明する。


 第一の事件として。ある日、休み時間になっても僕のところに来ない時があった。僕のことが好きな真礼さんが、僕のところに来ないとは。一体何たる事件か。何度も言うが決して勘違いではない。もういい加減、それお前の勘違いだろと言うのはやめてくれたまえ。読者諸君。君たち見たいな人が織田信長は実は本能寺の変では死んでいないとか、替え玉だったとか言い出すんだ。いい加減、歴史学者の仕事を増やすのをやめたまえ。大人しく、薄暗い部屋でムーでも読んでいてくれたまえ。


 ともあれ、それは僕にとって異常であった。彼女が来ないことに対しての苛立ちだってあった。そして若山の席の方を見る。すると、なんと! 彼女は外の景色をぼんやりと眺めているじゃないか。

 この校舎の窓から見える景色なんてつまらないものである。せいぜい、神戸の街並みと、地平線奥まで広がる瀬戸内海と、天気が良ければ淡路島、その奥の徳島の眉山だって見える時がある。……意外とこの校舎から見える景色、楽しいな。


 ともあれ、ずっと窓の外を見るだなんて。異常である。そのまま飛び降りてどこか消えてしまいそうなそんな予感だってする。だから止めないと。そう思った。


 僕は立ち上がった。そして彼女に。


「ドウシタノ ナヤミアルナラ キコウカ?」


 なれない言葉を発するもので、片言になった。

 彼女は僕の方を振り向いて首を傾げながら、


「キッコーマン?」


 どうして僕は醤油の話をせなあかんのか。

 まぁ、これに大しては僕が悪かった。声が小さくて、早口だった。


「いや、元気ないからさ」


「えっ、そうかな? 気のせいじゃないかな?」


 後日分かったことであるが、それが本当に気のせいであった。だけれどもその時。僕はこの娘は絶対に何か人に言えない悩みがあったと。そしてそれを救えるのは僕しかいない。僕が彼女の騎士なんだと。勘違いしていた。はい、これは勘違いです。


 しかし僕はその時。眦を決した。まず彼女に告白をする。そして、彼女の悩みを解決して見せるんだ。そう思った。


 そんな決意の顔をしていると


「どうしたの? そんな目を見開いて」


 そう言った。

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