ツインテールは優しく微笑む

 目が覚めて、最初に視界に入った美しい顔の眉間には皺が寄っていた。


「昨日会ったばかりの、それも自分を殺そうとしてる奴の腕の中でぐっすり眠るなんて。随分図太い神経してるのね。」


 どうやら私は朝までしっかりリリスの腕にお世話になっていたらしい。


 慌てて頭を上げようとするが、私の頭の下敷きになっている方の腕とは逆のリリスの手が私の頭を抑えている事に気づき、そのままの体勢でリリスに謝る。


「ご、ごめんね!リリスの髪の撫で方とか、すごく気持ちよくて…それに、リリスってすごく柔らかくて良い匂いがして気づいたら…むぐっ!?」


「…黙らないと窒息させて殺すわよ。」


 この年になって朝まで抱かれて、それもぐっすりと寝ていたというのは意外と恥ずかしかった。そのせいで余計な事まで口走ってしまったからだろうか、リリスはまた不機嫌そうにそう言って、私を強く抱きしめてきた。


 でもこれは、窒息して死ぬというか…天に召されるというか。


 リリスは私と同い年なのに、胸の発育が段違いに良い。私だってそこそこあるとは思うけど、全く勝負にならない。


 そんな彼女の特別豊かな場所に顔を押し付けられて死ねるなら、喜んで飛び込み死ぬ人はたくさんいるだろう。


 うん。私もその一人だ。


 ぎゅっと抱かれて、苦しい中で私は気づいたらリリスの腰に手を回して自分から抱きついていた。


「っ…」


 すると、リリスの身体が一瞬強張った。


 それから少し間を空けてから腕の力が少し緩み、私の頭に置かれた手が優しく私の髪を撫で始める。


 すると、苦しさが一切なくなって、最上級の気持ちよさが私を包み込んだ。


 同じ女の子で、同じ物だって付いてるのに、全然違う。細いのに全身柔らかくて、ありえないくらい良い匂いがして、ずっとこうしていたいと思わせる魔力がある。


「…アンタ意外とムッツリ?色仕掛けされたら簡単に騙されて、死にそうね。」


「うん。リリスが相手なら絶対騙されちゃうね。」


「…アホ。」


 嬉しかった。


 こんな仲のいい友達同士がするようなやりとりをしても、リリスからは殺気が感じられない。それどころか、髪を撫でる手からは優しさを感じる。


 まだまだ信用には足らないとは思う。けど、かなり前進した。この調子で私達に上下関係が無くなって、本当の友達になれたのならどうなに嬉しい事だろうか。


 これからの未来を思って、私はリリスの柔らかい胸に再び顔を埋めた。


「…私以外に騙されたら許さないから」


 よく聞こえなかったけど、私の後頭部に顔を埋めたリリスが何か言っていた。


 何て言ったのか気になるけど、それ以上にお風呂に入ってないから自分の頭皮の匂いが気になって仕方なかった。しかし、どうしてリリスはこんなに良い匂いがするんだろう。



 あれからリリスは無言で私を抱きしめ続けて、そこそこの時間が経っていた。


「そろそろいい時間ね。」


 リリスがそう言うと、最上級の柔らかさが私から離れていく。


 それを少し寂しく思うけど、仕方ない。今日は私たち6人でユリエラさんが用意してくれた拠点に向かう。そこで使いの人と待ち合わせをしていて、今後についての話し合いがある。


 離れたリリスは私を見つめて微笑んでいた。


 リリスの雰囲気が明らかに昨日までとは違って優しくなっている事に気づいて、嬉しく思った。それと同時に、この子にずっと抱かれていたのだと冷静に考えて照れ臭かった。


「さ、いらっしゃい。」


「え?…わっ!?」


 そんな風にして朝を終え、皆んなが集まる場所に行こうとした時だった。リリスは私を唐突に私を抱きしめたかと思うと、そのままお姫様抱っこの形にして歩き出した。

 

「アンタの鈍足に合わせるより、アタシの足で向かった方が早いでしょ?」


 正論ではあるのだが、この状態でみんなの前に行くのは恥ずかしすぎる。


 でも、昨日までならありえないリリスからの好意。リリスの方から私に歩み寄ってくれているのだ。断るわけにはいかない。


「お、お願いします」


 私は熱くなった顔を隠すようにリリスの首元に埋めて、そう呟いた。


 


 

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