11 あなたに惹かれてしまうから(2)
「お弁当を食べに来たの?」
え?
剣様の言葉にハッとして、存在を忘れていた手の中のお弁当箱を見た。
「あ、そうなんです」
慌てて返事をした。
「そう。どうぞ」
どうぞ?????
剣様は、ベンチの空いた部分を示している。ベンチの空いた部分というのは、つまり剣様が座っているベンチの空いた部分という事だ。
そこに座っていいという事?
まさか、そこに座っていいという事!?
まさか。
そんな事をしたら、剣様に近付き過ぎる。剣様の香りだけでお腹いっぱいになってしまう。
それに横並びだなんて。
あ、地面に座って、ベンチをテーブルにする!?
そうすれば、剣様よりは下位の者らしくなるかも。
ううん。
そんな事をしたら、剣様のおみ足のそばに座る事になってしまう。
そんな事になったら、昂ってしまって仕方がない。
けれどそんな事を考えている間に、剣様は、更にベンチの場所を空けた。
心臓が激しくなる。
バクバクバクバクバク。
ベンチで横並び????
これってつまりデートでは????
このガーデンが見える場所で????
え、ロマンチック過ぎでは??????
つまり私…………デートに誘われたって事????
『そうよ!これはデートよ!』
『確実やな。よっしゃ。嗅いどけ嗅いどけ』
緊張するけれど、隣に座る。
ゴーンゴーンゴーンゴーン……。
頭の中で、教会の鐘が鳴った。
手が震える。
けれど、お弁当を食べないのもおかしいので、その震える手のままでお弁当を食べ始める。
普通のご飯、普通の卵焼き、普通のミートボール、普通の苺。
ああ、もっと映えるお弁当を用意しておくべきだったんじゃない?
そう思いながらも、卵焼きに手を伸ばす。
……美味しい。
そうなのだ。お母さんの卵焼きは私好みなのだ。
「あの話、……誰かに声をかけてくれた?」
ふいに話しかけられ、緊張する。
声をかける……。といえば、前に話した人を集めるという話だ。
「すみません、誰も捕まらなくて」
謝りはするけれど、“誰も捕まらなくて”は語弊があった。
“誰も捕まらなかった”んじゃない。“誰も捕まえなかった”のだ。
そりゃそうだ。
知り合いが剣様と同じ空間で同じ空気を吸っているなんて。
そこに漂っている二酸化炭素は、剣様の口から出てきた二酸化炭素だ。
それはつまり、間接キスも同じじゃない?
知り合いがそんな空間にいると思うだけで、その相手をどうにかしてしまいそうで嫌なのだ。
絶対に許せない。
そんなわけで、誰も誘う事は出来なかった。
「そうなのね」
剣様は残念そうなお顔をされたけれど、こればかりは仕方がない。
「朝川さん。あなたは、部活なんかはやっている?」
部活。
私が入っているのはまさに『春日野町剣様ファンクラブ』なのだけれど。
それを言うわけにはいかなかった。
剣様本人を知らない人間の方が、こういう場合は剣様を安心させると思うのだ。
それに、ファンクラブメンバーだという事が誰かの耳に入ったら、私は明日あたり地獄行きだろう。
「いえ……何も」
「じゃあ、あなたはどうなの?」
剣様の声は、尋ねるというよりは少し高圧的な声で、私は一瞬、何を聞かれているのかわからなくなった。
◇◇◇◇◇
段々普通に会話できるようになってきましたかね?
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