12 あなたに惹かれてしまうから(3)
一瞬、何を言われたのか、混乱した。
その聞いた事もない少し強気な声がレアすぎて、頭の中で何度もリフレインした。
心に留めておかなければ。
それにしても剣様は何て言ったんだろう。
私はどうかって?
つまり……。
私が……誘われている?
「ご、ごめんなさい、先輩。それは出来ません」
「あら……」
剣様は、そこでたっぷりと間を取った。
「どうして?」
それはもちろん、ファンクラブのみんなを考えての事だ。
ここで剣様を待ち構える事も、これだけの会話をするのも裏切り行為なのだ。
これ以上罪を積み重ねて、私はどんな地獄に落ちるというのだろうか。
「友達の話なんですけど……、生徒会は辞めて欲しいって言われていて。なにか……誰かの?ファンクラブに入ってる子なんですけど……。嫌なんですって。その人と近いから?」
「ふぅん?」
危ない危ない!
剣様の名前を出してしまうところだった。
けど、この学園にはファンクラブは剣様のものしかない。これで通じるはず。
少し考える仕草をした剣様は、
「大丈夫よ。私が守ってあげる」
と、言った。
自信有りげな声。
剣様が……守ってくださる…………?
それは、甘美な響きだった。
剣様が誰かと対峙するだけでも、その情景を絵画にする必要があるだろう。
ドラクロワを揺り起こさなくては。
それも、その女神の守護対象がこの朝川奈子だというのだ。
それはもう、この言葉を耳にしただけで、明日ローストチキンになってしまっても仕方がないと言わざるを得ない。
「もし、そのファンクラブの人間が、あなたを吊るし上げる事になったら、私があなたを殴ってあげる」
「え…………?」
それは、まるで、唐突に吹いた強い風によって、ガーデンのバラが一斉に舞い散るような光景だった。
殴ってくださる……?
「先に私があなたを殴りつけて、『私自ら成敗してあげたわ!あなた達はこの汚いものに触る必要はなくてよ!』なんて言えば、もうあなたには手を出さないと思うわ」
予想外だけれど、なんて独創的な解決方法……!
それも、その手で私に触れてくださるなんて。
そのパンチはまさに奇跡なのでは???
「そ……れは…………」
正直、これ以上、理由や言い訳を積み上げるのは、余計に現実味を削ぐ行為のような気がした。
違う理由を作って、それで嫌な気持ちにさせずに断れるだろうか。
私が大切なのは、剣様と、ファンクラブの仲間達とどっち?
その手を使ってまで、守ってくれると言ってくれた剣様の気持ちは……?
いつもの壇上での強い瞳が、私を見ていた。
私だけを見ていた。
いつものようにみんなに語りかける瞳ではなかった。
今だけはただ、私だけが見られる瞳だ。
苦しい。
苦しい。
私は、この瞳に抗えるものを何一つ持ち合わせてはいなかった。
◇◇◇◇◇
どこまでも突っ走る二人組になりそうですね……。
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