2 背の低い親友
「ありがとう、真穂ちゃん」
うちわを大事に抱え、中等部でこの学園に入って以来の親友の真穂ちゃんにお礼を言う。
式典では、クラス毎に縦に並ぶ。
今回は、高等部だけの式典だったので、4クラス×3学年。一クラス2列なので、24列が並ぶ。
つまり、一番前で剣様を見られるのは、たった24人って事。
背の順だけれども、こういった式典では、剣様ファンクラブは見逃されている。なんと、順番を変わってもらっても誰も咎めたりしないのだ。
だから、ファンクラブのメンバーは大抵、一番前の人と場所を交換してもらう。
交換してくれない人もいる。
交換してくれる一番前の人を見つける事は、重要な場所確保作業なのだ。
高等部には、だいたい40人のファンクラブメンバーが存在する。
つまり、約半数は、一番前で剣様を見る事が出来ない。
私はそんなの耐えられない。
もちろん撮影は禁止だけれど、この眼球を通して、視神経を通して、脳に書き込むこの作業が、誰かの後頭部に遮られるなど許せない。
なので、極端に背の低い真穂ちゃんは、ありがたい存在だ。
「持つべきものは、背の低い親友だよ〜」
「失礼ね、あんた」
真穂ちゃんが口をとんがらかす。
そんな不服そうな顔をしたって、生まれつきキュートで背の低い真穂ちゃんの事だ。あまり恐く見えることはない。
剣様さえいなければ、食べちゃいたいと思う相手は、この子だっただろう。
これからも、睡眠時間を削って、背を伸ばさないようにしていただきたいものだ。
「奈子。今日は、クラスの決起会、行かない?」
真穂ちゃんが言っているのは、入学式の後のクラス毎の食事会の事だ。
この学校は、上品を売りにしているだけあって、なかなかなお金持ちも通っている。
実際、剣様の春日野町家もかなりのお金持ち。
つまり剣様はかなりのお嬢様。
ああ、もう、非の打ち所がない。
なので、みんなでカラオケやボーリングはあまり推奨されないご家庭が多い。
それどころか、授業終わったらすぐ帰ってこーい!なんていう家も多いくらいだ。
ほんとは、みんなでそういうところに行くタイミングなんだろうけど。
そんなわけで、年に数回のお食事会を学校行事として入れ込む事で、クラスみんなで遊ぶ事にしているというわけである。
ちょっと豪華にケータリングを注文して、ちょっとオシャレなジュースを飲んで、そしてみんなで持ち込んだ遊びに興じるのである。
テレビゲームを体育館やホールの巨大モニターに映すのが競争率の高い遊びだけれど、ダーツ、卓球、バスケなど人気の遊びは数多い。
「行くよ」
「あら、珍し。今日は、剣様を反芻する時間、取らなくていいの?」
「それも大事なんだけど、クラスのファンクラブの子達と連絡取りたいんだ。春休みの間の情報交換もしたいし」
「情報交換……ね。犯罪だけには、手を染めないでちょうだいね」
奈子はキョトンとした顔をする。
「真穂ちゃん、何言ってるの。犯罪者になったら、剣様の顔を見る事が出来なくなっちゃうんだよ?」
「ならいいけど」
真穂ちゃんが几帳面そうに切り揃えた髪先を揺らし、ツンとした顔を見せた。
◇◇◇◇◇
二人ともそこそこのお嬢様なんじゃないか、ということで。
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