③
俊介の家に着くと、部屋に入った。両親は出かけていて、家の中は静かだ。
「ここがそなたの部屋か」
ウサギは遠慮なくベッドに上がっている。
「そういえば、受験の結果はどうだったのだ?」
「受かったよ、ぎりぎりな」
「それは良かった」
ウサギの声は一定なので感情がなく、本当に思ってるのかわからない。思わず、本当に思ってるのかとつっこみたくなるが、言ったところで感情がわからないなら説明するのは面倒だ。
「ん?この印はなんだ?」
ウサギがカレンダーを指している。28日にぐるぐると丸がついている。
「それは俺の誕生日だ」
「ほぅ」ウサギは手帳を取り出してめくる。
「確かに誕生日であるな」
「初美と毎年お互い誕生日は祝ってんだ、彼氏か彼女がいない場合のみな」
「人間は皆誕生日を大事にする傾向にあるな。我には誕生日がないのでわからぬ感情だ」
「誕生日は1年に1度しかないイベントみたいなもんだからな」
「あと数日遅く死んでいればイベントもできたが、今回は仕方あるまいな」
死んだ人にこんなことをストレートに言うとはウサギは本当に感情がわからないらしい。
「そなたも写真を飾っておるのだな」
ウサギが指す方向には、初美と居酒屋で撮った写真が飾られている。
「あぁ、これはよく行く居酒屋で撮った写真だ」
「居酒屋とな」
「お互いに何かあった時も誕生日も集合するのはこの店だったよ。俺の同級生の店だからサービスしてくれるしな」
そういうと、俊介は何かを思いついた顔をして「2回目の願い事決めたわ」とウサギには耳打ちした。
俊介は、奇跡的な合格で公立大へと進学した。高校の担任からは奇跡の合格だと泣かれるくらいだった。初美は、もちろん余裕で合格していた。
入学式の帰りに「もうバスケはやり切ったー!って感じだし、俊介も一緒にテニスサークル入ろ」初美にそう押し切られて、同じテニスサークルに入った。
学部も同じだったので、同じ空間で過ごすことは多かったが、お互い友人を作ったりして、べったり一緒というわけではなかった。それでも互いに何かあると呼び出したりして、他の友人とは違う関係ではあった。
「お前達、付き合ってないの?」成人式で口々に友人に言われたり、「朝練の前に2人で練習してたからてっきり付き合ってるのかと思ったわ」とバスケ部の友人にも言われたが、他の同性の友人と変わらない関係だった。
時には旅行に行ったこともあった。その時は「彼氏にフラれた!どこか行きたい!」という初美のワガママで草津温泉に2泊3日で出かけた。
俊介は車の免許を持っていないため、初美の運転で出かけた。
車内はもっぱら元カレの話だった。
「ねぇ、どうして私っていつもふられるんだろ?魅力ないのかな」
「いや、そんなことはねぇと思うけどな」
運転席に座る初美を見てみる。
「スタイルも悪くないし、顔も目が大きくてかわいらしいし、性格も明るくて優しいし・・・」
確かに改めて初美をみると可愛らしい。どちらかというとモテるタイプだろう。
「じゃあ俊介ならどんな子をいいなって思うの?」
「そうだなぁ・・・。小柄でかわいらしくて、優しくてよく笑う子かな」
「それ私じゃん」とあっけらかんと言って、初美は笑っている。
同じことを考えていたので、恥ずかしさで熱くなってくる。
「お前達、付き合ってないの?」という同級生の言葉がよみがえる。
「お前とは違った、小柄で可愛らしくて、優しくてよく笑う子が好きなんだよ。それに俺のタイプなんて参考にならないだろ」と言って、窓の外に目を向けた。
ホテルの部屋は別々だったが、それは男女だからというより、初美は寝言がうるさく、俊介は電気をつけていないと寝れないというお互い強い癖を持っていたからだ。
寝る前に俊介の部屋で飲みなおしていると、初美が「私は孤独死する気がする」といって泣き出した。初美は厄介なことに泣き上戸だ。
「しねぇよ。絶対そんなことはない」
「じゃあ、ずっと俊介は友達でいてくれるわけ?」
「いやー俺も結婚とかするかもしれんしな」
「裏切りだー!」初美は拗ねたフリをしてベットに飛び込んで、布団にくるまる。
「何してんだよ、子供じゃねぇんだから。ったく」
「俊介も私を置いていく気なんだ」オイオイと泣き真似までしてくる。
「仕方ないな。じゃあ約束するか」
「約束?」
「お互い30歳でも一人だったら結婚しよう」
「え?親友じゃなくて」
「おぅ。俺と結婚したくないと思ったら、婚活頑張れるだろ」
「俊介、手を出して」
俊介が手を出すと、何かについてた針金で作った輪っかが置かれた。
「なんだこれ?」
「指輪だよ、指輪。もし30過ぎて一人だったら、この指輪はめてもらうから」
初美はすっかり出来上がっている。
「へいへい」
そう言いながら、俊介は財布に大事にしまった。
俊介自身もこんなに仲が良い男女はいないと思うし、周りが不思議がるのも理解できる。でもこの関係が居心地よくて、変える気にはならなかった。多分初美も同じ気持ちなのだと思う。お互い相手ができて会うことがない期間もあったが、授業もサークルも同じなので顔は合わせる機会が多く、疎遠になることもなかった。
大学生活はそれなりに充実した生活を送り、就職活動で忙しくなると、大学でも顔を合わせる機会も減った。それでもこの会社に落ちてショックだの、面接でこんなこと聞かれただの連絡だけは取っていた。
そして無事に就職がきまり、それぞれの道へ進むことになった。
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