第10話 ひゃん

 学園祭当日。

 天気にも恵まれて、客足も上々だ。

 俺達の模擬店はパンケーキだったので、結構人気だった。可愛らしいトッピングがインスタ映えするらしい。


 そして今、ひなこと俺はお化け屋敷の列に並んでいた。

 その名も『花子さんとかくれんぼ』


 コメディ臭溢れるネーミングだと思うんだけど、ひなこの顔は既に強張っている。


「ひなこ、怖かったら無理すること無いと思うけど」

「だ、大丈夫」


 そう言いながら、俺のシャツをギューッと掴むの、可愛いんだけど。


 昨日行った大和の情報では別名『リア充爆ぜろ屋敷』だったそうで、カップルで入ると容赦無くやられるらしい。


 黒幕をくぐった先。これでもかと段ボールの隙間を塞いだ漆黒の闇に、ぽうっと浮かび上がる一人の少女の肖像画。


 おどろおどろしい声が、この少女の身の上を語る。


 虐めでトイレに閉じ込められた花子さん。

『もう出てもいい?』と友人達に尋ねるも『まだだよ』と返され続ける。

 泣きながら取り残されて、行方不明に。


 その後立て続けに生徒の失踪事件が起こり、廃校になってしまったと言う設定らしい。


 参加者は、ここで『もういいかい』と言う花子さんに、『もういいよ』と返してあげ無いと呪われてしまうのだ。


「もう〜いい〜か〜い」


 ねっとりと湿った声が尋ねてくる。


「「もういいよ」」


 ふにっ


 ん~~!?


 こ、これは……


 恐怖で固まったひなこが、俺の脇に腕を差し入れて体をぴとっと貼り付けてきた。


 や、柔らかい。

 お化け屋敷で至福の時間なんて。


 と思った瞬間、目の前の肖像画から髪振り乱し血だらけの女が飛び出してきた。


 おっと危ない!


 咄嗟にひなこの目を覆い肩で遮る。


 ふっ、召喚獣守護神の実力を見せつけてやる。


 ガシャガシャドンドンと派手な音が鳴るもさっさと次へと進めば、暗闇からセーラーゾンビの群れが襲いかかって来た。


「キァ」


 ひなこの口から溢れかけた悲鳴が止まる。


 なんか、擽ったい……


 胸元に広がる温かい感触。


 ひなこの奴、悲鳴を我慢しようと必死で俺の胸に顔を埋めてくるとは。


 最高だぜ!


 セーラーゾンビは俺達を引離そうと四方から仕掛けてくるも、ひなこを抱きかかえるようにして振り切ってやった。


 と思ったら、ワシャワシャと音を立てて降り注いできたビニールテープの雨。


 首筋を直撃しないよう、ひなこの頭上で手を振り回した瞬間。


 ビシャ

 うわぁっぷ


 誰だよ、濡れタオル顔に投げやがった奴は!?


「ひゃん」


 あ……


 ひなこのなんとも言えない声。


 しまった!

 気を抜いてしまった……


 慌てて抱き寄せた。


 トクトクと肌を伝う鼓動。


 なんだよ。

 いつもは腹黒召喚師のクセに。

 こんな子供騙しを本気で怖がるなんて。


 可愛くて、愛おしくてたまらなくなる。


 なんでだろうな?


 あ、そうか―――


 俺、ひなこのことが好きなんだ!



【作者より】

 お忙しい中、ここまで読み進めてくださりありがとうございます。温かい応援、感謝しております。


 皆様、台風の被害は大丈夫でしょうか?

 私の家は大丈夫ですが、近くでは河川の氾濫も起こっています。想定外の雨風は危険で恐ろしいですね。

 どうか気をつけてお過ごしくださいませ。

 


 


 


 

 

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