第9話 盾《タンク》になって

 パクッ ふぅわぁ〜

 はむっ むふっ

 ぺろり うふふっ


 まずいっ。目が……

 ひなこの口元に吸い寄せられてしまう。


「あ、あのさぁ」

「なぁに?」


 言いかけて、またもや口を噤む。


 間接キスのこと、どうやら気づいて無いらしい。

 だったら言わないほうがいいよな。


「やっぱり何でも無い」

「じゃんけん」


 えっ、ここで!?


「ぽいっ」


 おざなりに出したパーは、当然ひなこに敵うはずもなく。


「明日の朝、迎えに来て。一緒に学校行こう」

「ふぇ」


 最早、妄想と現実の境がわからん。

 脳筋の限界を超えた展開に、俺は心ここにあらずで応答する。


「まひろ、聞いてる?」

「お、ああ」

「油絵出来上がったんだ」


 あ、なるほど。荷物持ちってことだな。

 それなら納得。


「おお、いいよ」

「見せてあげないよ」

「別に、学園祭で見れるから」

「見に来てくれるの!」

「お、おお」

「約束だよっ。んっ」


 ひなこが小指を差し出してきた。


「指切りっ」

「えっ」

「するのっ」

「お、おう」


 絡めた指は白くて細くて。

 壊れそうだから動けなくて。


「指切りげんまん、嘘ついたら……ゴニョゴニョの刑」

「ん!?」


 最後の方、聞こえなかったけど。


 でも、なんかひなこが赤い顔してるから、聞き返し辛い。


 ま、いっか。

 どうせいつも召喚とか言って、ワガママ放題振り回されてるし。慣れてきちまったぜ。


 金欠なので、この後は真っ直ぐ帰宅。

 久しぶりにアラームをセットして眠りについた。



 翌朝。

 大荷物を抱えて一緒に登校すれば、当然、好奇心と嫉妬の視線に晒されたけど、ひなこは全然気づいて無いようだ。


 こいつ、案外鈍いのかも。


 ま、ひなこが気にしてないなら別にいっか。


 

 「じゃんけんぽい」


 また昼寝を邪魔された。ほいっとグーを出すも惨敗。


「あのね、学園祭の時」

「おお」

「一緒にお化け屋敷行こう」

「怖いの苦手じゃ無かったっけ」

「うん。でも、友達のクラスだから。来てって頼まれてるし」


 こう見えて、ちゃんと友達を大切にする奴なんだよな。


 あれ? 俺のことは……

 あ、召喚獣だからね。


「怖いの苦手だから、タンクになって欲しいの」


 守護神降臨!


 脳内イメージが炸裂した。


 ようやく召喚獣っぽいお役目が回ってきたゼ。


「いいよ」

「やったっ。じゃあさ、二日目は一緒に周ろう」


 ん、なんか、拘束時間が増えたんだが。

 

 女装コンテストのメンバーは二日目の模擬店のシフトが免除されている。


 つまり、午前中はフリーだ。


 大和はカノジョと約束してるし。

 

「別に俺はいいけど」

「よしっ」


 何が『よしっ』だよ。


 でも……なんか楽しみだな。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る