第8話 はんぶんこしようっ

 学園祭の準備が佳境のため、帰りはだいぶ遅くなったけれど。

 俺達は今、サーティー◯ンにいる。


 ニッコニコひなこはメニューボードを見ながら悩んでいた。


 早くしろよー


「フレーバーはねぇ、これとぉ、これ」

「えっと、二つも」

「ダブルじゃなきゃ食べた気しないもん。わかっていると思うけど、サイズはレギュラーだよ」

「へいへい」


 ピーンチ。財布が軽すぎる……

 仕方がない。


「あれ、まひろは?」

「ん、俺はいらね」 

「ふぅーん。クールな男アピールでもしてるの?」

「そう」

「似合わないけどね」


 くそっ。相変わらず言いたい放題だな。


 でも、満面の笑みでアイスを受け取るひなこを見ていると、まあ、いっかと思えてくるから不思議だ。


 イートインスペースに座ると、早速食べ始めた。


 ひと掬い。パクリ。


「う〜ん、幸せ」

「良かったな」

「うふふ。ありがと」


 俺もなんか幸せになってきたよ。

 死ぬほど腹減ってるけど。


「昔さ、まひろがアイスくれたよね」

「えっ」

「モナ◯アイス、パキって割って半分くれたんだよね」

「覚えていたんだ」

「そりゃ……嬉しかったもん」


 目の前のアイスを大切そうに食べながら、ひなこが続ける。


「友達と喧嘩して公園で泣いてた時。おつかい帰りのまひろが通りかかって、『食べる?』ってくれて」


 ああ、思い出したぞ。


 あの頃、母さんの手伝いで買い物に行くと、お釣りで好きな物買えたんだよな。ほとんどはゲームのカードに使ってたけど、あの日は暑くて、たまたまアイスを買ったんだった。


「ね、あの時みたいにはんぶんこしようっ」

「いや、別にいいって」

「はい、あ~んして」


 えっ、あ~んだって!


「ほら、溶けちゃうから早くぅ」


 あ、あ~ん。

 おずおずと口を開ければ、スポッとひなこがスプーンを差し入れてくれた。


 おおー! 夢の『あ~ん』だ!


 感激で胸が震えるぜ。


 召喚獣生活も案外悪くないな。


 などと一瞬思ったけど、よくよく考えたら、このアイスは俺の金で買ったやつだよな。


 これはひなこの懐柔政策か!


「はい、あ~ん」

「お、おう」


 でも、まあ……

 すっげー甘くて美味しいアイスだ。

 

 ん!? これってもしかして。


 間接キス……


 昨夜のことが蘇る。


 わ、た、し、の、こ、と


 ぷるんとした唇。

 そして目の前にも……


 う、うわぁ!


 鼻血出そう。


「はい、あ~ん」

「いや、もう十分」

「そうなの?」


 挙動不審でコクコクと頷けば、にーんまり。


 ひなこ腹黒召喚師は、何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「残り、たべちゃうからねぇ」


 

 

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