第7話 甘いが足りないの

「おっはよう、まひろ」


 その言葉と同時にむにっと頬をつままれた。


「よし」


 よしじゃねぇ。いてぇよ。


 でも、どうやら機嫌は直っているようだ。  

 ほっと胸を撫で下ろす。


「忘れずにちゃんと塗って来たわね。偉い偉い」


 偉い偉いって。

 なんか、ひなこんちのペットになった気分だ。


 あ、召喚獣だった……


「じゃんけん、ぽい」


 それまだ続けるのかよ?


 条件反射だけでグーを出した。結果は火を見るより明らか。


「ひなこ大召喚師殿。本日は如何ように?」

「アイス奢って」

「アイス……」

「圧倒的に甘いが足りないの」

「ほう?」

「糖分が欲しいっ」


 そういえば、ガキの頃、ひなことモナ◯アイスをはんぶんこして食べた事があったな。

 いつ、どこでだったかは思い出せねぇけど。


「購買のモ◯カアイスでいいよな?」


 ギロリと睨まれた。


 えっ、怖いんですけど。


「帰りがけにサー◯ィーワンに行く」


 ん? それ、高いやつじゃん。

 今月は課金し過ぎてピンチなのだが。


 しかも、それだと……デートみたいじゃないか。


 俺、ひなこファンに消されるかも。


 ひなこはモテる。

 昼寝マイスターの俺の耳にまで噂が届くくらいに。


「いや、それは……は、ハルちゃんと行けよ」

「ハルちゃんとだと奢って貰えないじゃん」


 それもそうか、と納得しかけてハタと気づく。


 俺に奢って貰うってのもおかしいよな。

 そもそも召喚ルールはひなこが勝手に決めた事だし。


「あのさぁ」


 ずーっと気になっていた事を口にしてみる。


「お前さ、こういう事やってると誤解されて困るんじゃねぇの」

「こう言うことって?」

「召喚とか言って俺を弄り倒すこと」


 ひなこの眉がピクリとした。


「……何を誤解されるって思ってるの?」

「それは……」


 言いかけて気づく。


 俺って自意識過剰だな……

 俺とひなこじゃ、誰も誤解するやつなんかいねぇよな。


 言いづらくなって口を噤めば、ひなこが重ねて聞いてきた。


「まひろは誤解されると困るの?」


「えっ、いや、別に俺はいいんだけど」


 ふんっとひなこが笑った。


「私も大丈夫だよ。問題無いね」


 えっ!?

 こいつ、本当に分かってるのかよ。


 でも、なんか機嫌が良くなったような気がするのは、気のせいかな。


 ほんと、わかんねぇよな。

 ひなこのご機嫌スイッチがどこにあるのかなんて。


「アイス、約束だよぉ」


 弾むようにそう言うと、颯爽と去っていった。

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