第5話 今夜うちに来て

 ズズッ、スポッ、ズボッ、スポン


「あ、こら、まひろ動かないで!」


 次の日の放課後、俺と大和はクラスの連中に囲まれていた。

 主に女子。


 夢のようなシチュでは無い。

 昨日ひなこが言っていた女装コンテストの衣装決めだ。


 そして宣告通り、俺の担当はひなことハルちゃん、はるなだったか、はるかだったかは最早忘れた……と他数名。


 で、さっきから取っ替え引っ替え、頭にズボズボとカチューシャを差し込まれている。


 これが地味に痛い。

 圧迫されて感じ悪い。


「ねぇ、ハルちゃん、どう思う?」

「どっちも良いと思うよ」


 いや、どっちもよくねぇ!

 猫耳か犬耳かの違いだけじゃねぇか。


「まひろの髪質、案外サラサラだから地毛でいけるかなーって思ったけど」

「やっぱ、かつらの方が萌えるね」

「うん」


 そこからはまた、かつらを取っ替え引っ替え……


 動けねぇの、辛い!


 チラリと横目で大和を見れば、ノリノリで楽しそうだ。


 順応力。すげぇー


 むにっ!?


 ひなこが俺の頬をつまみ上げた。


「にゃにひゅるんだおぅ。ひてぇおぅ」

「ニキビ」

「ふあぁ?」

「当日までに消さないと」


 んなの、後十日でどうしろと?


「じゃんけんぽい」


 え、ここで始める!?

 みんな見ているゾ。


 流石の俺も固まっていたら急かされた。


「早くぅ」


 くそっ、もうどうとでもなれ。


 結果はいつも通り。


 にんまりひなこの顔が近づいてくる。


 逃げるスペースは無かった。


 かつらの髪を静かに掬い上げると、そうっと耳にかけられた。

 それが擽ったくてゾクゾクして。


「今夜うちに来て。時間はLINEするから」


 吐息と共に告げられた指令は、脳天直撃の弾丸だった。



『九時にうちの玄関前で。遅れないでよ』


 本当にLINEが来たよ……


 俺の家からひなこの家までは、歩いても十分程度。ガキの頃は近くの公園で遊んだりしていたから、勝手知ったる道のりだ。


 一応親には、コンビニ行ってくると誤魔化した。

 まあ、ひなこの両親も在宅だから、何があるって話じゃ無いのは分かっている。


 でもさ、やっぱりドキドキするよな。

 こう言う、いつもとは違う時間に会うのってさ。


 呼び鈴を押すか迷っていると、スウェット姿のひなこが飛び出して来た。

 

 濡れた髪に上気した頬。

 微かに露をまとう眼鏡。


 風呂上がりの高い体温が夜の空気に冷やされて、揺らめき匂い立つ。


 門灯に映し出されたひなこは、いつもの腹黒召喚師では無かった。


「ご、ごめんね。遅れて」

「いや、今来たばかりだから」


 互いにちょっとだけ、視線をずらした。


 

 


 

 


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