第4話 綺麗にしてあげるからねぇ

 中休み。俺はすんげー焦っていた。

 次の数学の宿題が終わっていなかったから。


 別に優等生なわけじゃなくて。

 赤点属性を持つ俺としては、せめて宿題くらい真面目にやっておかねぇと、単位が危ないって現実が迫っていただけで。


 そんな鬼気迫る俺の席に、いつものように腹黒召喚師がやって来た。


 無視! 今は無視しかねぇ。

 いや、後が怖いか?


 究極の選択にお腹が鳴った。

 腹減った……


「じゃんけんぽい」


 顔もあげずに手だけで参戦。結果も見ずに聞いてやった。


「で、ご希望は?」

「これ、写していいよ」


 差し出されたのはひなこの宿題の解答用紙。


 えっ!? 

 神ですか! 


 丸眼鏡の奥の瞳が、俄に慈悲深い聖女の眼差しに見えてくる。


「ありがたや~」


 咄嗟に拝んで受け取れば、ぐぐっと聖女の顔が迫ってきた。耳元で囁かれる。


「合ってるかは分からないけど」


 そんなの全然構いません!

 こんなもの宿題、それらしく書いてありゃ問題無いだろ。


 いや、本当はくすぐったくて、ふわりといい香りがして―――思考が吹っ飛んでしまった。


「全然、大丈夫」


 何とかそれだけ返して、機械のように書き写していった。



「助かったぜ。ありがとな」


 感謝の気持ちを余すところ無く伝えるために、円な瞳を意識する。


 俺は可愛い召喚獣……


 今日は無理難題を吹っ掛けられなかったからな。

 せめてもの礼にこれくらいやってやるぜ!


 いや、間違いだった……


 ひなこはやっぱり、聖女じゃ無くて腹黒召喚師だった。


 解答用紙を手渡せば、に〜んまり意味深な笑みを浮かべる召喚師。


「今日のお願いはねぇ」 


 あ、それ無効じゃ無かったんだ。


「まひろの女装衣装、私に決定権ちょうだい」


 ぐはっ……


 思い出させるな!

 俺のの黒歴史。


 俺達の学校の学園祭では、毎年女装コンテストが開催されていた。各クラスから選出された代表二名が、学年関係なく美を競う……のだが、何をトチ狂ったのか、うちのクラスからはダチの大和と俺が選ばれた。


 いやさぁ、大和はイケメンだからいいんだよ。何着ても似合いそうだし。


 俺は……何故選ばれた!?

 金魚のフンって言葉しか思いつかねぇ。


 で、クラスのみんなが衣装を考えて準備してくれるらしいんだけど。


 ひなこに決定権って、どゆこと!?


 コイツが選ぶと碌なことにならない気がするんだけど。


 に〜んまり。


 腹黒召喚師は……以下略。


 俺に選択肢は残されていない。

 頷くしかなかった。


「最高に綺麗にしてあげるからねぇ」


 悪魔の宣告が下された―――

 

 


 

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