第2話 モフらせたまえ

 あー、だるっ。


 毎朝登校してくるだけで疲れる。休まずちゃんと来た俺、偉い!


 ダチの大和やまとは始業の鐘一分前にならないと来ない。だから、今から十分間は俺の休息タイムだ。


 机に突っ伏して爆睡のはずが……邪魔が入った。


「おっはよう、まひろ君」

「……」


 寝たふり、寝たふり。


「まひろ〜、じゃんけんしよう」

「……」

「じゃんけんぽいっ!」


 くっそう!

 また反射的に出しちまった。


「ふふん、また私の勝ちー」

「へいへい、クソご主人様、本日は何をお望みでしょうか?」

「クソは余分。ムフフ」


 なんか嫌な予感がする。


「それじゃぁねぇ〜、召喚獣らしくモフらせたまえ!」

「はあっ!? あ、お前、ちょっ、まてっ、やめっ」


 俺の抗議の声はスルーされ、両手で思いっきり頭をワシャワシャと撫でくり回された。


「ひなこっ! やめろっ。崩れるだろぅが」

「おお、もしかして、毎朝一生懸命セットしてるんですかぁ」

「んなわけ……」


 あるよ!

 これでも一応ムースつけてドライヤーして、整えて来てるんだよ。俺の貴重な時間、返せ。


 そもそも、召喚獣はモフるためにいるんじゃねぇ。一緒に闘うために呼び出すんだぞ。


「ああ〜、癒されるぅ〜」

「やーめーろー」

「こら、避けるな。ご主人様を癒すのだ」

「っざけんなよ」

「だって、今日は朝からママとバトって超ゼツ気分が悪かったの。その上お弁当も作ってもらえな……いい事思いついた」


 ようやく開放されたと思ったら、また碌でも無い事を思いついたらしい。


「もう一回じゃんけんしよう」

「断る」


 両手で髪を掻き上げ整え、眉間にシワ寄せて言ってやった。


「えー、そんなこと言わないでさぁ、もう一回だけ」


 お前、こんな時だけ上目遣い。しかも、眼鏡の隙間からうるうる瞳で!

 あざとすぎるだろっ。


「くっ」

「じゃんけんぽいっ」


 負けてやった。

 そう、今回は負けてやったんだからな。ありがたく思えよ。


「やったっ。じゃあ、脳筋にふさわしい任務だよ」


 脳筋、脳筋言うな。

 まるで俺が何も考えていないみたいに聞こえるだろうが。こう見えて繊細なんだぞ。


「昼休み、購買でメロンパンとミニサラダとグレープフルーツジュース買って来てね」


 うん。そんな事だろうと思っていたよ。

 仕方ねぇな。俺の俊足を見せてやるよ。


 と言うのは嘘です。

 思いっきり出遅れて、メロンパンもミニサラダも売り切れでした。


 で、何故か俺の弁当が分捕られた。

 

 残り物のあんぱんが、妙に塩っぽく感じられるぜ。

 

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