第十話 南雲家

 孤児院にきてからざっと一年少しが過ぎたこの頃、私は10歳になった。


「セレネアちゃん、ちょっといいかな?大事な話があるんだ。」


 孤児院の人に言われる。私は頭に?が浮かんだ。当然だ、思い当たる節が無いのだから。

 私は言われるがままついていくと、孤児院の人にこう言われた。


「実はね、セレネアちゃんのことを引き取ってくれるって言う人が見つかったの、それで明明後日辺りにその人が来るから心の準備をしておいて欲しいんだ。優しい人だから安心して」


 突然の報告で頭が真っ白になった。いや、当然だ、この孤児院にある限りは何時でもあり得ることだ。私は貰い手が見つかったのだ、どんな人かはわからないけど。その人は多分組織の人間では無いと思う、それは私に関する情報を組織に認識させない様にしているからだ。そもそも組織自体あの施設をまた復活させようとは思わないはずだ。なぜなら学ぶからだ、あの施設は私の魔術により、時空間のエントロピーをメチャクチャにしたのであの中では時間の概念があやふやになったり、今いる場所が突然変わったり、遺伝子構造が乱雑に歪ませられた生物が跋扈していたりとあそこは一種の無法地帯となっていた。組織は施設の異常を感じてそこに舞台を投入しただろうし、偵察作戦に失敗しようが成功があそこの再運用は諦めるだろう。そして、今生きているかすら分からない魔女の存在は手を出さないだろうし、これ以上触れようとしないはずだ。そして私に関しての情報だが、戸籍発行以前の私の情報は知ることができないはずだ。それは戸籍発行前に能面を被ったことに起因する。あれは調べてみると、自分が許可した特定の情報以外の情報の拡散、伝達を阻止する効果があるからだ。私は戸籍発行前に、未設定で被ったため、私に関する全ての情報の拡散、伝達の阻止が行われただろう。つまり、今私のことを知っているのはそれ以前に実物として見たもしくは情報として記憶していた人物のみだというわけだ。

 私は一旦思考を止めて安堵と共に期待と不安が入り混じった感情になる。それは、組織の人間の可能性が限りなく低いという安堵と、もしも自分を制限する様な人だったら、もしも自分と反りが合わない家族だったら、そんな不安と。どんな家族だろう、どんな家だろう、どんな人と繋がりを持てるのだろう?という期待だった。

 そんな期待を心に潜めていると、何時の間にかに当日がきた。


「君がセレネア君かな?私は南雲 輪廻、南雲家の頭首というのをやらせてもらっている。君の家族になる人間だ」


「よろしくお願いします。この孤児院で暮らさせて頂いていました、セレネア•スミスと申します。」


「その名前は実名かな?」


「?」


「いや、いい、じゃあ宜しく頼むよ。それじゃあ家族になるに当たって知ってもらうことがあるから教えるね、まずは名前が変わることからかな、君を養子にするわけなんだけど、その時に苗字として南雲の名前がつく、あとは、あと言っておくのは、家族構成とか家のルールとかかな?家族構成は私と、君と同年代の女の子一人って言う感じだね。家のルールはまず、お小遣いという形でお金を上げることはないということかな、欲しいものがあったら都度言ってほしい、できる限りのものは買う。それと学校だね、基本的に娘と同じ学校に行ってもらう。その方が娘と一緒で管理しやすいからね、大体覚えるべきことは言ったけど質問なんかはあるかい?」


「えっと、同年代の娘がいると聞いたんですけど、その子の名前とか教えてもらえませんか?」


「あぁ!言ってなかったね、南雲 陽毬ナグモ ヒマリと言う、家に着いたら宜しくね、あとスマホとかも必要だね、家に着いたら契約しているやつを渡すから使ってみてほしい。」


「わかりました。ありがとうございます」


 彼は事務的だった、淡々と要点だけを話していっていた。私的には分かりやすかたったけど、それだけで私から一歩離れた距離感で、私のことを伺っているのが分かる。

 南雲陽毬、私の同年代という彼の娘だ。どんな子なのだろうか?やはり、今までと違う人がいきなり家族になったとかなったら遠慮というものが出来るのだろうか?当たり前だ、それは仕方ない、そういう遠慮や一歩離れた距離感での接し方をやられても仕方ないのだ。だから、ゆっくり、じっくり馴染んで行く、紙にシミが広がっていくように、病気が侵食していくように。じっくり、じっくりと溶かしていけばいいのだ、私にはできる。


仲良くなれたらいいな


 できるなら、友人と同じぐらい、親しくなれたら、幸せだろうな。これから家族という一生変わることのない称号を共にするのだ。そう考えるのも無理はない。

 でもそれは今計画するものではない、自然となっていくものなのだ。


これで魔術を自由に取り込める。

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