第五話 魔女2

 手術の後からは簡単だったニンゲンと血を飲むだけ、ただ..それだけだ。


「やだ、死にたくない。たすけて、やめて、殺さないで..お願いだから。」


 目の前の女性は懇願する。涙を流しながら、顔を崩しながら、私を子供だと知ってからか懇願する。


「お願い、お願いだから」


「ごめんね、私の為に..死んで?」


 私は彼女の首を、持っていたナイフで切り裂く、彼女は瞳に絶望を宿している。いた。首が引き裂かれたあとの反応は


「——、—————」


声にならない声をあげている。


「イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ————」


 でもそんな声も次第に静止していく、消えていく、この小さな部屋に沈黙のみが残る。でもその沈黙もいつのまにか消えて—


「う”、お”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”え。ゲホッゲホッうぅ、うぅっぷ。はぁはぁ、お”え”」


 気持ち悪い、気持ち悪い、初めての殺人という感覚、初めて生の人を引き裂いた、殺した感覚、それらは全て彼女に降り掛かってくる。さっきの沈黙が消えた音がこの惨劇を自分でやったことなのだと。自分がやったことなのだと、自覚させる。自覚させられる。


「研究長、1207の精神状態が低下しています。今日は一旦やめて翌日に続きをやりましょう。」


「わかった。流石に精神力が高いとは言っても初めての殺人だ。今までは銃で動物を殺していたが、今はナイフだ。彼女の精神衛生的に悪かったんだろう、今日は中止だ!彼女を部屋で休ませてやれ!」


☆★☆★☆★☆

 今までは怪物を殺して殺しの練習をしてきた、それで自分が人殺しをできるほどだと疑わなかった。でも実際はこうだ、人殺しの罪悪感に押しつぶされそうになっている。当たり前だ、まだ10歳にも満たない少女が、倫理、道徳も脳に刻まれている少女が、ナイフで、自分の手で、人を殺害したのだから。例えそれが異界の魂が入った少女であろうと、この世界での、一般常識での人殺しはいかないこと、罪、禁忌、さまざまな認識と共に“ダメなこと”として知っている。理解している。


(..考えちゃダメだ、今日は..もう..寝よう)


 少女は目を閉じる、必死に忘れようと、逃れようと、でもそれは眠らせてくれない、逃げさせてくれない、必死に寝ようとしても目が覚め続ける。頭の中であの人の声がこだまし続ける。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、寝かせてよ..

*£€^%#スリープ


少女は眠りにつく、自身の持つ最大の特技を持って強制的に自分を眠らす。


(あれ..?ここは、どこ?)


 少女が見たのは真っ暗な空間、上下も左右も曖昧で、自分がどこにいるのかも忘れてしまいそうな、底なし地獄のような、奈落のような、そんな空間


少女は見渡す、どこにいるのかを自分の存在を確かめるように


「うっ」


目の前に女性が映る、私が殺した人だ。私が生きる道を奪った人だ。


《魂の数は1つ、まだ足りない、もっと、もっとよこせ》


「貴方は..だれ?」


《魔女、ティーガン•ミラーそれが私の名前だ。》


「ここは..どこ?」


《魔炉、目、お前が得た時、お前の中に私が生まれた。お前が殺した時、私の中に魂がきた、お前がここにきた時、私はお前と喋ることができる。ここは魔女の間、魔女ののみが立ち入れる空間、まぁこの世界で魔女を指すものなど一人しかいない、この私そのものだ。お前は魔女の素質がある、そしてこれらを体に入れても暴走、変形、変異しなかったのはお前だけだ。これは魔女になるための試練である。魔女になるための宿命である。最低人20、無垢の血を喰らえ。そしたらお前は魔女への昇格ができるだろう。お前が抱いている殺しの罪悪感を抑える助言をしてやろう。“一人殺せば殺人鬼、100万人殺せば英雄、殺しの数が、殺した数がお前の殺しを正当化させる、正義の為に、自分の為に人を生物を殺せ”これはお前に与えられた使命であり、義務であり、宿命だ。殺しが怖いなら、さらなる殺しでその怖さを押し殺せ、恐怖も、罪悪感も全て全て殺せばいい。お前の打った魔法の弾丸は止まらないのだから、止まらないのだから。それが私にできる助言だ》


(殺した数が..私の殺しを正当化させる..)


 少女は心に刻む、脳に刻む、体に刻む自分が傷つかない為に、自分の心を壊さないようにする為に、痛みを抑えようとする為に。


一字一句を慎重に刻んでいく、研究施設とは違う方法で。


 やがて刻み終えたころ、少女は疲れ果てた心を眠らす為に、さらには魔女の間を泡沫に帰すように、真っ黒な何にもない空間で眠りにつく。

 すると、気づいた頃には目が覚める。意識が消えたと思ったら、目が覚めたとき別の空間だった。現実リアルに引き戻されたのだ、魔女の間での一時は、現実ではかなりの時間を要したようで、時計に目を向けると腹が六時の方向を指していた。


%%#£^?肉体の保護


+£€^%%?虫の知らせ


 少女は自身の体に魔術を付与する。これは少女の日課だ。不意打ちされても大丈夫なように、攻撃されても大丈夫なように自分を守ってくれる。


☆★☆★☆★☆


「ごめんね」


少女は女性を切り裂く


「ごめんね」


少女は男性を切り裂く



人を、殺して、殺して、殺して、殺して…


「ごめんね、私の為に死んで?」


女性を切り裂く、今回は前までより多く血飛沫が飛んだ気がする。


「これで終わりだ。今日は休みなさい」


私は研究員に言われるがまま部屋に戻った。


20人、殺したのだ。


————————————————————

はい、こんにちは、多分ですけど次回あたりで研究施設編は終わりとなると思われます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る