出立


 ナミミ様から連絡のあった翌日。

 魔王城にお呼び出しされた俺達は、魔王様との謁見の場にてナミミ様から手紙――一応、正式な書状が届いた旨を教えてもらった。


「というわけじゃから、イロニムとコガネを妾が前線まで送ろうかの」

「ありがとうママ!……あっちに着いたら転移魔法陣書くからね!」

「うむ。……まさか本当にこんな早くムーンフォールの領主を説得するとはのぉ……普通に代替わりを待つと思ってたのじゃ」


 予想が外れたな、と玉座に座ったままやれやれと肩をすくめる魔王様。

 確かに代替わりしてナミミ様がムーンフォールの領主になれば、ダンジョン回りを独立地域にするのも楽々だっただろう。


 あるいはその場合、ムーンフォール全体がバニムーンから独立しての第三勢力になっていたかもしれない。


「……あれ? そう考えるとあの黒尻尾たちの言ってたことってあながち間違ってねぇな」


 国にあだなしすぎである。

 ……先手を取って許可を出したのは、エルフの時間間隔ならではのムーンフォール攻略、いや、侵略だったのかもしれないな。

 3年の期限はついてはいるものの、その前に独立許可が出て良かったというべきだろうか? さすがハサミ様、慧眼だぜ。


「書状の方の条件は、まぁまぁ納得できるもんじゃったのでサインしといたでな。ほれ、これを届けてやるといい。受け取れコガネ」

「ははっ! ありがとうございます」


 くるくると軽くまいた羊皮紙の書状を俺に投げ渡す魔王様。

 縛る前に、俺もちょっと中を覗いてみるか。

 ……ふむ。うむ。なるほど。そういうことか……分からんと言うことが分かった!


「なぁイロニムはこれ分かる?」

「ん?……ざっくりいうと、とりあえず3年は独立区画の自由を認めてくれるっぽいね! その代わりに、両国に対し1日あたり300本のキントキを納めるようにだって」


 今のMPは8200ちょいあるから、木箱ごと出したとしても楽勝だな。

 ナミミ様は俺のレベルアップ前、この10分の1程度の時のMPしか知らなかったはずだ。その821だったとしても無理のない輸出量だったといえよう。


「ま、俺はナミに言われたらその通りにニンジンを出すだけさ」

「それはそれで、達観してるねぇ」

「そりゃそうよ。だって俺は――ナミのペットだぞ? 恋人でもあるけどな」


 独立区画でのヒバニンの取り扱いってどうなるんだろうね。魔王国寄りだと俺にも多少の人権が生まれるんだが……


「おいおい二人とも。それより、独立するためにダンジョンまわりの掃除をしっかりやってもらうのじゃよ? その準備はええのか?」

「あ、うんママ。こんな事だろうと思ってしっかり準備は済ませてあるよ!」

「……あの娘がいないと、本当にしっかりした自慢の娘じゃのぉ」


 魔王様は遠くを見つめた。きっとナミミ様がその方向に居るに違いない、かもしれない。うん。




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