ムーンフォールの血筋(ナミミ視点)
バニーの構えをとり、にじり寄るハサミ。
「さぁ、お前の恥を数えろ……!」
「私に恥じる事などありませ――あれ、父様? 母様、父様をここに連れてきたんですか!?」
ナミミの迫真の表情を、ハサミはフッと鼻で笑う。
「フッ、そのような流言に引っかかる私だと――」
「おーいハサミ? なにやってるんだい?」
「――マイベターハーフ!? なんで外に出てるんだ!! ダメじゃないか危ないと言っただろう!?」
ぐいん、と後ろを振り向くハサミ。そこには本当の本当にナミミの父、バルオウがいた。
……これには浅い事情がある。
なにせ先日は満月であった。しかしハサミは前線に居たかった。
故に、苦渋の決断としてバルオウを連れて前線まで出てきていたのである!
バルオウもナミミの事が心配だったので、少しでもナミミに近いと思われる前線に出てくることに否やはなく、昨晩はねっとりとしたぴょんぴょんをして今ようやく起きたところだった。
「おお、ナミミ! 声が聞こえてきたから顔を出したんだよ。無事だったみたいだね」
「父様!」
ニコニコといつも通りの笑みを浮かべてナミミに近づくバルオウ。
バルオウがナミミに近づくことをハサミは止めない。なぜなら、親子の再会である。自分の愛するベターハーフと愛娘が話すのを、ハサミは、空気を呼んで止めるのを止めた。
「父様。ちょっと失礼」
「うん?」
「……さぁ母様! 父様の命が惜しくば、私達の独立を認めてください!!」
ぐっとバルオウを人質にとるように――否。まさしく人質に取って、ナミミはハサミに要求を突きつけた。
すでにダウンしていたサナチ達も、言葉こそ出さないし倒れたままだが「ないわー」と呆れざるを得なかった。
「ちょっとまて!? 今、母は邪魔しなかっただろう!? それはずるいぞ!?」
「母様相手に手段を選んでる余裕はありませんので! というわけで父様。ご協力ください」
「……ナミミ? どういうことだい?」
「はい父様。私もベターハーフを見つけた――そういうことです」
「なるほど。ユガミ様との一件を思い出すなぁ」
ユガミ。ユガミ・ムーンフォール。それはナミミの祖母であり、ハサミの母。つまりは前ムーンフォール領主である。
「おばあ様を……?」
「うん。ハサミも先代領主の専属ヒバニン――ナミミにとってはおじいさんだね。その専属ヒバニンをこうして盾にとって、ナミミを産むことを認めさせたんだよ」
「……!?」
「確か、『王家との子はバニーを終わらせる厄災となる』だったっけ? そんな予言があったとかで、子供を産むのを反対されたんだよね」
「! 違う! ナミミは厄災などではない!」
「そうだね、僕もそう思ってる」
ナミミは首を傾げた。
厄災だのなんだの言われても全く知らない話だったからだ。なので、とりあえず厄災云々は聞かなかったことにした。
「えーっと。とりあえず独立を認めてください。さもなくば父様にひどいことをします」
「フンッ、所詮小娘の言う酷い事だ、たかが知れている。ナミミには我がベターハーフ相手に本当に酷いことなどできはしまい。母はナミミが良い子だと知っているからな!」
「具体的には魔王国四天王、アラクナと父様をぴょんぴょんさせます」
「わかった、妥協点を。妥協点を探そうではないか。改めて話を聞こう。ベターハーフを解放しろ」
ハサミが構えを解いて両手を挙げる。
「父様には今しばらく私側にいてもらいます。是非私に有利な交渉をお願いしますね?」
「……今更ハサミ以外とぴょんぴょんする体力もないからねぇ。やれやれ」
かくして、父親を人質にするという途轍もなく卑劣な手段を用いることにより、ようやくナミミはハサミに独立について建設的な話をできることになった。
勿論、倒れたままのサナチ達はずっと「これ本当にナミミに味方していいものか……?」と自問自答していた。
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