ムーンフォールの血統スキル(ナミミ視点)



「というわけで、ニンジン屋としてダンジョンを拠点に独立したいんです」

「……ツーシ、これは私のINTが不足しているのか?」

「いえ、ナミミ様の説明が悪いんじゃないかと」

「魔王の許可は貰ってるので、あとは母様だけなんです」

「魔王はこの説明で許可を出したのか???」

「出してましたね。ええ」


 ハサミは頭を抱えた。

 跡取り娘が誘拐された結果色々とこじらせて帰ってきた。一言で言ってしまえばそういう事だ。


「……ナミミの寿命を考えれば数十年。エルフにとっては大した時間でもあるまい、か。なら許可も出すだろう。しかし、我々にとってはそうはいかぬな」

「母様?」


 ハサミのつぶやきとため息に、首をかしげるナミミ。


「とりあえずナミミをバニーに戻す。秘儀ゆえ、ツーシとサナチは外に出ておけ。声をかけるまで誰も入れるなよ」

「は、はいっ! 承知しました!」

「かしこまりました!」


 部屋を出るツーシとサナチ。部屋に二人きりで残り、ハサミはナミミに向かい合って立つ。


「さて。では母のバニーを剥ぎなさい」

「え? と、突然何を?」

「ナミミ、お前をバニーに戻すには、血統スキル――『継ぎし者』を使う必要があるのだ」


 血統スキル、『継ぎし者』。魔王に対抗できるそのスキルについて、ハサミは説明する。


「使い方は簡単だ。親や姉の、年上の親族のバニーを剥ぐ。そして着る。それだけだ」

「……え?」

「親しき者からバニーりょくを継ぐ。それが『継ぎし者』なのだ。……さ、剥ぐが良い。母は抵抗しない」


 バニーを剥ぎ取る。それは、まるで魔王の血統スキル、『奪いし者』と同じではないかと目を見開いで驚くナミミ。

 ハサミは、赤いバニースーツをナミミに見せつけるように胸を張る。


「で、でもそんなことをしたら、母様はバニーでなくなってしまうのでは」

「母は大丈夫だ」


 そう言いながらハサミはニコリと笑みを浮かべる。そして、ナミミの手を胸元に運んだ。


「愛しい娘をバニーに戻す。そのためだからな、遠慮することはない」

「し、しかし!? 母様!?」

「バニーに戻るのだろう? ベターハーフを守る力を得るために戻ってきた。違うのか?」

「……で、でも」

「早くしろ。母も、母の母からこうしてバニーを受け継いだからな」


 真剣なまなざしを向けるハサミに、ナミミはごくりと唾をのんだ。覚悟を決めて、ぐっと胸元の布を掴む。


「母様……失礼します!」

「うむ」


 ぐいぃっ!! と、下に引きずり下ろすと、バルンッとその大きな胸が零れ落ち、赤いバニースーツがめくれて剥がれた。



 バニーを剥がれ、ヒバニンとなるハサミ。

 満足げににこりと笑い、ナミミに、手に持ったレオタードを着ろと目線で促す。


「っ、母様、ありがとうございます」

「……うむ」


 そして、バニーを着るナミミ。ふわりとレオタードが優しく光ると、少しぶかぶかだった赤いレオタードはぴったりとナミミのサイズに変わった。


「……バニーの力が……力が、湧いてきます!」

「うむ。だろうな、これは一族の者以外には秘密である。心するように」

「はい。しかし、母様がヒバニンに……あれ?」

「ん? どうした?」


 見ると、ハサミはレオタードを着て、バニーガールになっていた。


「……あの、母様?」

「うむ」

「てっきり、母様の力を受け継いだ分、母様がバニーじゃなくなるとかそういうスキルだと思ったのですけど」

「? 言っただろう、母は大丈夫だと。そして母も母の母からバニーを受け継いでいると。……バニー力の宿ったレオタードは歴代ムーンフォールのバニーガールの数だけあるぞ?」

「あ、はい」


 ハサミは、ナミミにしっかり言ったはずであったのに、何を言っているんだと首を傾げた。

 どうやら説明の言葉が時々足りないのはムーンフォールの血筋らしい。




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