白馬に乗った王子様というのは存在しない世界


 アラクナさんが釣り上げたナミミ様は、すとんっと俺の目の前に落ちてきた。

 ナイスコントロールである。


「大丈夫だったかナミ!?」

「こ、コガネ、さん……」


 ナミミ様は随分とボロボロになっていた。が、致命的な傷や出血とかはない。ポーションで治る程度の小さな傷にとどまっていた。

 そして俺をキラキラした瞳で見て嬉しそうにふわっと微笑む。


「えへへ……コガネさんってば、まるで白馬に乗った白バニーおひめさまですね……!」

「そこ王子様じゃないんだ。って、そもそも王子様という役職がないのか」


 この世界、白馬に乗った王子様は存在しないのだ。

 なにせ、力があるのはバニーガールだから。ナミミ様の父にして女王様金バニーの弟、バルオウさんだって王家出身のただのヒバニンだし。


「ちょっとぉ、わたくしに感謝はぁ?」

「ああ! ありがとうございますアラクナさん! さすが四天王筆頭!」

「ふふん。この程度の相手に手こずってたイロニムとは違うのよ」


 身体をひねり得意げに鼻を高くするアラクナさん。

 直後、ずがぁん!! と大きな爆発が起き、黒バニーが吹っ飛んだ。イロニムが魔法で吹っ飛ばした模様。


「ナミを盾にされなかったら私だって余裕だったんだよっ!! ってかなんでアラクナがここに!?」

「あら。わたくしは見ての通り、この坊やの彼女を助けてキントキを貰うために来たのですわ」

「あ、このひと誘拐犯な」

「! コガネを攫った仲間ぁ!? アラクナ! ナミとコガネ、ついでにサナチたんを解放しろぉっ!!」

「イロニム、あなた人の事いえる立場でして???」

「……うぐぅ!」


 そうだね、どっちも誘拐犯だったね。


「まぁまぁイロニム。アラクナさんとはキントキ一年分で助けてもらう約束をしたんだ」

「ふふん、四天王のわたくしを動かすのにふさわしい報酬でしてよ」

「……じゃあ暫定味方ってことでいいよ」

「よろしくてよ」


 そう言ってアラクナの隣にイロニムは立つ。四天王同士であればそれは正しい立ち位置。そして吹き飛ばされた黒バニーは普通に着地し、こちらと相対する。

 イロニムの一撃で片付いたかもと思ったが、相手も中々の精鋭ということだ。


「チッ……! アラクナめ。こちらとの契約はどうしたんですか?」

「契約ぅ? さぁて、何の事かわからないですわね……あなたたち、何か知っていて?」

「いえ! なんも知らないっす姐さん!」

「アタイも分からないっす!」

「そうよねぇ。わたくし、いくら満月の日でも知らないバニーと契約なんて怖い事しませんわぁー!」


 くすくす、と笑うアラクナ。

 本当は何かあったのだろうか……まぁあったんじゃないかなぁとは思うだけど、それはそれ。今はこちらの約束の方が優先である!!


 ……知らないヒバニンとは約束しちゃうんだなぁって。



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